御茶ノ水 Rittor Base

音と映像の多目的スペース「御茶ノ水 Rittor Base」

GENELEC・RMEを導入した、マルチチャンネル対応のイベント・スペース

1979年創刊の『キーボード・マガジン』をはじめ、『ギター・マガジン』など数々の雑誌メディアを中心に“音楽する”楽しさを広めてきたリットーミュージック。そうした出版社である同社がこの度、東京・御茶ノ水に注目のイベント・スペースをオープンさせた。その名も「Rittor Base」。音楽雑誌を発行する出版社がこうした自社施設を持つことの狙いとは?また、そこに導入されているGENELEC S360A7380A、RME Digiface Danteが選ばれた経緯とは?
文・取材◎山本 昇 撮影◎八島 崇
 


 
JR御茶ノ水駅。その御茶ノ水橋口の改札を出て、目の前の交差点の信号がもし青であったなら、駅からわずか1分で辿り着くだろう。そんな好立地に2019年春にオープンしたのが「御茶ノ水 Rittor Base」だ。
御茶ノ水RittorBase:國崎氏
「私たちはRittor Baseを多目的スペースと位置づけています。実際に2019年3月のオープンからすでにセミナーやレクチャー、ライヴ、映像収録、試写会、レコーディングと、さまざまな催しを行なってきました」
こう語るのは、当施設の管理・運営を担当するリットーミュージックのスタジオ事業部長、國崎晋氏だ。サウンド・クリエイターのための専門誌『サウンド&レコーディング・マガジン』で20年にわたり編集長を務め、長くレコーディングやSRの分野を見つめながらさまざまな提言を行なってきた人物である。その彼が中心となって作り上げた“多目的スペース”とはいかなる場所なのか。國崎氏へのインタヴューを通じて掘り下げていこう。
 

独自企画を含む多彩なイベントを随時開催

かつては音楽レーベルを立ち上げるなど、音楽制作にも取り組んできたリットーミュージック。現在は『サウンド&レコーディング・マガジン』の名前を冠したDSD配信専門レーベルを、ハイレゾ配信サイトOTOTOYとのコラボレーションで運営している。Rittor Baseは、こうした試みに活用することも可能だろう。
「2010年に、DSDダウンロードを世界に先がけてスタートさせたときはスタジオを借りて制作していましたが、これからはここで録音することも検討していきたいと思っています」
雑誌メディアの自社施設というと、情報発信の意味合いも大きいと思われるが、何か参考にした例はあったのだろうか。
「参考にしたのは、私も何度か出演したことのある〈DOMMUNE〉さんでした。魅力的なイベントを日々開催し、それをストリーミングして世界中に届けるというコンセプトですね。加えて、来場者の皆さんにいい音で聴いてもらいたいので極上のスピーカーを用意しました。」
ここで催されるイベントは、雑誌と連動したものが多いのだろうか。
「そこは本当にいろいろですね。雑誌発の企画があれば、Rittor Baseとしての独自企画もあります。過去には、『ベース・マガジン』主催でエフェクターの聴き比べをしたり、独自企画として映画の試写イベントを行なったりしています」
取材に訪れた日には、ニューヨークのギター・ビルダーを描いた話題の映画『カーマイン・ストリート・ギター』の試写が行なわれていたが、単に映画の上映だけでなく、その工房が制作したギターを実際に取り寄せ、しかもゲストとして招かれたギタリストの高田漣がそれを手にトークし試奏するという、ギター好きにはたまらないプログラムとなっていた。試写会にこうした一工夫を加えることで、来場者が見聞きした体験はより特別なものとして印象付けられることだろう。そして、そうした多様なプログラムはRittor Baseという場所への期待感も抱かせる。
30〜40人というキャパシティは決して広いハコとは言えないが、その分、来場者の1人1人には濃密な体験を保証できることだろう。それを支えているのが、先ほどの國崎氏の言葉にもあるように、最新のクリエイティヴ・シーンを取材してきた立場からのこだわりを体現した映像と音響だ。映画関係者も納得させた映像設備として、4K映像に対応するSONYの超単焦点プロジェクターを導入。また、動画配信のための本格的なリモート・カメラやスイッチャーも備えている。
 

良好な音響特性の意外な理由

この部屋は元々、キリスト教系の宗教施設として礼拝にも使われていたこともあり、防音と遮音はもちろん、左右の壁は後方に広がり、天井も後方に向かって高く傾斜させるなど、定在波が生じにくい設計となっている。
「すでに防音と遮音は完璧にできていましたから、施工の際は音を整える調音に集中できました。壁の表面は石のような素材なので、そのままだと響きすぎますから、カーテンで調整できるようにしています。ただ、それほど広い容積の空間ではありませんので、狭苦しい音にもしたくありません。ある程度、開放感のある音にしたいということで、日本音響エンジニアリングさんに施工を依頼して、『AGS』という音響拡散体を多数導入しています」
さらに、調音するうえで効果的だったのが床面に使用した木材だと言う。
「ローズウッドというギターの指板にも使われる高級材で、コストはそれなりにかかりましたが、とてもいい感じの反射が得られています。いい意味で硬い音というか、硬すぎない音というか……。しっかりとした響きがあって、音がブレないんです」
御茶ノ水 Rittor Base:内観
 

GENELEC S360Aと7380Aが選ばれた経緯とは?

2018年の11月に施工が完了したRittor Baseが稼働し始めたのは、2019年の3月から。その間は主な機材について、何を導入するか、じっくりと検討する時間に充てていたという。
「こうした施設を立ち上げる場合、通常は何を入れるのかを最初に決めてから、ワイヤリングも含めて業者さんにお任せして仕上げていくのが普通らしいのですが、ここの場合は全く逆で、まず部屋を造り、何を入れるかはそれから考えることにしました。いろんな機材をお借りして聴き比べを行ない、機材の一つひとつを吟味して決めていきましたその都度ワイヤリングも自分たちで行なっていたので、なかなか大変でしたね」
御茶ノ水Rittor Base:S360APそして、注目の音響設備にはメイン・スピーカーにGENELEC S360Aとサブ・ウーファーの7380Aが導入されている。S360Aは、カテゴリーとしてはスタジオ・モニターに分けられるモデルだが、ライヴ・イベントも催されるこの場所でこの種のスピーカーを選んだのはなぜだろう。
「先ほどこの場所を多目的スペースとご紹介しましたが、本当にいろんな用途で使っていて、空いている時間には当社が発行している雑誌の機材撮影にも使用しています。そういうときにも映り込まないようにするなど、スピーカーは必要に応じて動かせるようにしておきたかったのです」
そして、最終的にS360Aを選定した理由について國崎氏はこう語る。
「S360Aが出るという情報を目にしたときから、注目していたんです。多チャンネルなイマーシヴ時代のポス・プロ用スピーカーとして、コンパクトでありながら、いままでのGENELECのラージ・スピーカー並みの音圧が出せるという記述を読んで、“ひょっとしたらぴったりなのでは?”と直感したんです。そこで試聴してみたら、思った通りの音でした。とにかく十分な音圧は欠かせなかったのですが、S360AはかなりのSPLが得られて、しかもPA的ではなくスタジオ寄りのサウンドだったというのが主な選定理由です」
数十人とは言え、それなりの人数に向けて鳴らすためには、並のスタジオ・モニターでは厳しいところだろうが、パワフルなデジタル・アンプを内蔵したS360Aであれば、その正確なサウンドを会場全体で共有できるだろう。
「私自身、長らく雑誌でパワード・モニターを推してきたこともあります(笑)。パワードのいいところは、1台1台がアンプとのマッチングがよくとれているところでしょう」
S360Aの音は、ここを訪れるエンジニア諸氏からも評価が高いという。
御茶ノ水RittorBase:7380APMなお、サブ・ウーファー7380Aの導入については、「PAスピーカーと比べてスタジオ・モニターに足りないのが低域ですが、7380Aを導入することで十分すぎるくらいの低域が得られています」と話してくれた。國崎氏はそもそも、GENELECスピーカーにはどんな印象を持っていたのだろう。
「私が最初にGENELECを聴いたのは、『サウンド&レコーディング・マガジン』の取材で訪れた、ある音楽制作現場で使われていたS30でした。そのときの驚きはいまでも忘れられません。解像度、情報量の多さ、高域の伸び、どれをとっても最高で、これこそプロの音だと衝撃を受けました。以降も、GENELECはいいスピーカーをたくさん出していて、いろんなスタジオでも耳にしてきましたが、個人的にも好きな音という印象がありますね」
 

「GLM (Genelec Loudspeaker Manager)」の使い勝手

そして、Rittor Baseを自らの手で組み上げてきた國崎氏が特に評価していたのが、室内音響の特性を理想的なものに補正する「GLM 3」だ。その効果や使い勝手について伺うと……。
「実際の音を測定してチューニングできるGLM 3の優秀さにはシビれましたね(笑)。補正前後の音の違いには本当にびっくりしました。それなりに音を整えた部屋であっても、ある程度の山・谷があるのは当然で、補正前にはあるところでピークが感じられましたが、それがピタッと消えてフラットな特性に変わったんです。また、サブ・ウーファーの設置場所も紆余曲折してこの場所に落ち着いたのですが、ご覧のとおりメイン・スピーカーとの距離がそろっていません。でも、サブ・ウーファーを含めて位相調整もしてくれるので非常に便利です。しかも、それがとても簡単に行なえるのはありがたいですね」
従来のチューニングと言えば、音響補正用の機材を物理的に足したり、あるいはグラフィック・イコライザーで特性を調整したり、お金と時間をかけて行なっていたものだが、それが「測定一発、1〜2分程度で完了」するというのだから、こうしたDSP技術の進歩には目を見張るものがある。当施設ではすでに、可動式の観客席の有無で2種類のプリセットを用意しているということだが、GLM 3のようなソリューションは運用するうえでも強力なツールとなっているようだ。
御茶ノ水RittorBase:内観
 

他の施設との差別化にも優位なマルチ・チャンネル対応

部屋の周りを見渡すと、スピーカーはメインのS360Aのほか、天井や床に小型のスピーカーが複数設置されているのに気付く。そう、ここRittor Baseはマルチ・チャンネルにも対応しているのだ。
「サラウンド用にCODA AUDIOのD5-Cubeというフルレンジ・スピーカーを8台導入して、さまざまなスピーカー・レンダリングをしています。ハイト・スピーカーも設置し、Dolby AtmosやAuro-3D、DTS:X、22.2chといったイマーシヴ・フォーマットもオリジナルのパッチを組むことで対応しています。いまどき5.1chは当たり前ですから、開設当初から立体的なイマーシヴ・サウンドに対応することを目指していました。お陰様で、そうしたサラウンド関連の催しのお話もよくいただいています」
最近は映画だけでなく、音楽作品でもマルチ・チャンネル化したものも増えているが、そうしたサウンドを映画館ではなく、このようなイベント・スペースで多くの聴衆と共有できるというのは珍しい。
「実際にやってみると、立体音響に対応したライヴ・スペースを探していた方が多かったことに気付きました。“こういう場所を探していました”という言葉はよくいただいています」
 

こだわりのデジタル・コンソールと伝送システム

Rittor Baseでは現在、伝送システムにはDanteを使用している。これを選んだ理由を尋ねると、コストを意識しながらも、クオリティにはこだわりたいという國崎氏の姿勢が浮かび上がってくる。
「コンソールはALLEN & HEATHのSQ-5なのですが、これを選んだのは、予算内のデジタル卓の中から96kHzで動くモデルを探した結果です。48kHzでもよければ選択肢は広がったのですが、これまでハイレゾを推奨してきた手前、このスペックにはこだわりたかったのです。SQ-5はプリ・アンプの音も良く、大変満足しています。そして、このデジタル・ミキサーがサポートしていることもあり、サラウンドを含めたネットワークをDanteで組むことになりました」
その伝送システムについて、國崎氏はさらにこう付け加える。
御茶ノ水RittorBase:Digiface Dante「ただ、この先はMADIに対応する機材の導入も考えられますので、RMEのDigiface Danteを用意してこれに備えています。Digiface Danteがあれば、DanteとMADIを混在してネットワークが組めますからね。また、サラウンドを構成するためのプロセッシングを行なうWindowsのノートPCにUSB3.0で接続しているDigiface Danteは、Windowsだと録音機能(Global Record)が使えるので、先日行なったサラウンドのイベントでは音声をすべて録音することができました。これはなかなか便利な機能ですね」
 

本格的な映像設備もワンオペで対応

冒頭でも触れたように、Rittor Baseは音響機材だけでなく、映像設備も充実している。
「当初はここまでちゃんとしたものを入れようとは考えていなかったんですよ。でも、SONYの超単焦点プロジェクターも、この画質を観てしまうとどうしても導入したくて(笑)。また、同じ頃に出来上がった音響スペース「Artware hub」を見学させていただいたときに気になったのがリモート・カメラでした。映像設備として、当初は普通のカムコーダーを2〜3台購入するつもりだったのですが、そこで見たリモート・カメラがあまりに素晴らしくて。“これがあれば映像もワンマン・オペレーションで扱えるのでは”と思い、カメラ2台とスイッチャーを導入しました」
では、気になるイベント開催時のオペレーションはどのように行なっているのだろう。
「ここではオペレーターに常駐してもらっているわけではありません。卓のマニュアルも通勤中に隅から隅まで自分で読み込んで、なんとか使いこなせるようになりました。スイッチャーとリモート・コントローラーをコンソールの隣に置いて、いまでは完全に私1人で映像と音を制御できています」
 
 

音楽やミュージシャンの素晴らしさを届けたい

御茶ノ水RittorBase:國崎氏今後、Rittor Baseがどんなスペースとして展開していくのか。國崎氏は少し先の未来について、このように語ってくれた。
「私自身、当初は想定していなかった使い方−−−例えばレコーディングも最初はそんなにやるつもりはなかったのですが、イベントに出演してくれたバンドから“この部屋が気に入ったので、録音に使わせてください”という要望があり、実際に録音も行ないましたし、映画の試写会も予定していたわけではありませんが、お陰様で好評です。用途を絞ることなく、何にでも対応できるようにと考えていたのが、いい形で転がり始めていますので、これからも予期しないことをいろいろできるといいなと思っています。そして、いいカメラも導入しましたので(笑)、生中継を含めた動画配信も、もっと増やしていきたいですね。ただ、ワンマン・オペレーションは大変なので、さすがに毎日というわけにはいきませんけれど(笑)」
最後に、雑誌作りからイベント運営へ、形を変えても読者やオーディエンスに伝えたいことは何かと尋ねると、このような答が返ってきた。
「それはずっと変わらなくて、“これは”と思う音楽の良さ、プレイヤーの素晴らしさを1人でも多くの人に知ってもらいたいということに尽きます。雑誌やイベントなどメディアを変えながら、そんなことをやっているわけですね。だからこそ、基本的にここはハコ貸しをしません。こちらが主催、もしくは共催という形にこだわってイベントのクオリティを担保して、リットーミュージックとしてお勧めできるものをどんどん発信していきたいと思っています」


導入機材

GENELEC S360A

GENELEC S360A

音声の解像度や音質を損なわずにハイSPL出力を提供するスタジオ・モニター

GENELEC 7380A

GENELEC 7380A

SAMファミリーの低域をさらに強化するGenelecのフラッグシップ・スタジオ・サブウーファー

RME Digiface Dante

RME Digiface Dante

256チャンネル 192 kHz Dante – MADI対応USB オーディオインターフェイス / コンバーター

 


 

御茶ノ水RittorBase御茶ノ水Rittor Base

リットーミュージックが楽器の街・御茶ノ水に開設した多目的スペースです。楽器の音が理想的に響く環境を整え、機材も最高のものを用意しました。

公式サイト

働き方改革:オフィスの音響調整

オフィスの音環境に満足していますか?

最近、テレワーク、リモートワークが増えて実感されている方も多いと思いますが、自宅の方がより集中でき、仕事の効率が上がるという人は多いのではないでしょうか? そして、これは仕事場に溢れている「ノイズ」が原因となっており、その「ノイズ」が集中力を下げ、仕事の効率を落としているということをご存知でしょうか。
人の耳は自分で意識的に選んだ音を集中的に聞き、他の音(ノイズ)の音量を脳内で下げるという処理を行なっており、これを「カクテルパーティー効果」といいます。試しに一度、社内の音をマイクで収録してみてください。(収録には、全帯域を無指向=180°で収録できるマイクを使ってみてください) 電話の音、自分が直接関係しない同僚の仕事上の会話、キーボードを叩く音、空調の音、などなど、、、皆がどれだけ気をつけていても、人が集まって仕事をする以上、そこには、必ず「音」が発生ていることに気づくと思います。そして、マイクを使って仕事場を録音してみてみると、脳内でのフィルター処理がかかっていない ”すっぴん” の「音」を聞くことができますので、結果として、普段自分がどれだけ必要としていない音=ノイズに囲まれているかが一目(聴)瞭然になり、あまりにも様々な音が、自分が認識していたより大きな音で存在していたかに気づき驚くと思います。そして、逆説的に考えると、この様々な「ノイズ」を自動的に脳内で気にならないようにフィルター処理していた、人間の知覚の素晴らしさに気づくと思います。
脳の行なっているフィルター処理は、実は大変複雑な処理で、この処理を瞬時に行うために、自分の気づかないところで脳は非常に複雑なタスクを処理し続けているのです。したがって、1日の終わりには、脳はぐったりと疲れてしまっています。多くの場合、この疲れは「ストレス」として表現されます。もちろん、社会生活には音によるストレス以外にもたくさんのストレスがあり、それらは、音響調整アイテムを使っても取り除くことができませんが、少なくとも、音響調整アイテムを使えば、随分と音由来のストレスを緩和させることができるのです。
このブログでは、どのように仕事場の「音」環境を改善できるのかをご紹介したいと思います。

どれだけの時間を仕事場で過ごしていますか?

1日8時間労働と考え、週に5日働いている人の場合、週に40時間、1ヶ月でおおよそ160時間を仕事場で過ごしていることになります。現代の多くの社会人は、睡眠時間と同等、またはそれよりも長い時間を仕事場で過ごしているのです。それほど長い時間を過ごす場所ですので、当然仕事場の環境を整えることは、経営者にとってとても大切な事案になります。睡眠の質を向上させるために、ベッドを変えたり枕を変えたりするように、仕事場の”音”環境も、比較的簡単に改善することができます。一度に全ての”音”環境を改善できない場合は、特に困っているところから順番に少しずつ改善してみてはいかがでしょうか。

仕事場の ”音” 環境を改善するメリット

仕事場の音響を改善するとこんなメリットがあります。

メンタルヘルス効果

メンタルヘルスの健全さが仕事や人生に大きな影響を与えることは、当然の事実です。そして、仕事環境にも、最適な音楽・環境音などを、適切なボリュームで流すことにより、メンタルヘルスの向上が期待できます。これに関しては、様々な学者が様々な研究を行なっておりますので「なんとなくそんな気がする」というレベルではなく、科学的に検証されている結果なのです。メンタルヘルスが改善すると、心が前向きに意欲的になり、仕事のパフォーマンスがアップします。従業員の心身が安定し生産性が上がれば、会社の業績にも必ず良い結果がもたらされることが大いに期待できます。

マスキング効果

マスキング効果とは、簡単にいうと、職場に存在する「ノイズ」を目立たなくするトリックです。特に先述の「自分が直接関係しない同僚の仕事上の会話」など人の声は、会話の音を「遮断」するのではなく、人の声に近い周波数帯の”音のカーテン”を引いてあげることで、会話の内容が聞き取れなくなり、脳が会話の内容を分析することをストップすることで、気にならなくなる効果を利用して、より良い仕事環境を構築するアプローチです。
また、厳密には、マスキング効果とは異なりますが、ワーキングスペースに適度なパーティションを設けることにより、物理的に話し声などをブロックして音量を減衰させるアプローチもあります。
どちらのアプローチでも、集中力を高め、パフォーマンスを向上させることに大いに貢献することが期待できます。


 

ワーキングスペースの 音響改善

ワーキングスペースでの音響改善に最適なソリューションをご紹介します。
音の改善は、音の入り口と出口(マイクとスピーカー)の改善が、まずは最も効果があります。
したがって、オフィスの音環境を整えるためにBGMや環境音を流すにも、やはり良いスピーカーを使った方が、その効果が高まるということが言えます。

Genelec  4430A Smart IPスピーカー

世界中のプロフェッショナルに認められている、北欧(Finland)のスピーカーメーカーGenelec(ジェネレック)のIPスピーカーを、まず最初にご紹介します。
Genelec 4430A
このスピーカーは、アンプを内臓している、いわゆる「アクティブ・スピーカー」となっていますので、アンプを別途用意する必要がありません。しかも再生ディバイスとは、LANケーブル1本で繋がってしまいますので、電源もスピーカーケーブルも必要ありません。下記の図のように、PoEもしくはPoE+に対応したスイッチングハブから、各スピーカーへLANケーブルを接続するだけです。施工も簡単ですし、何より大量のケーブルを職場内に敷設する必要がないため、見た目も大変美しく設置することができます。サイズは、4430Aと、少し小柄な4420Aの2種類から選べます。
Genelec 4430A
音源の再生は、PCもしくは、IP伝送に対応したCDプレイヤー、BGM再生装置などから行います。この部分も、スイッチングハブにLANケーブル一本でOKです。
さらに、これはIPスピーカーならではの機能ですが、スピーカー・グループを設定することにより、特定のスピーカーからは、他のスピーカーとは異なる音源やボリュームを設定することが可能です。異なる環境に対して、2セットの(またはそれ以上の)システムを導入することなく音源を完全にコントロールできるため、大幅なコストカットを行うことができるのです。


ちなみに、少し丸みを帯びた特徴的なこのスピーカーの外観は、Finlandが誇る世界的に有名なデザイナー ハッリ・コスキネン(Harri Koskinen)によるものです。ハッリ・コスキネンの代表作は、この「ブロックランプ」という室内照明です。皆さんも一度はどこかで見たことがるのではないかと思います。

GENELEC RALカラー

また、Genelecは、カラーオプションも豊富です。
白や黒以外にも、ドイツの標準 RALのカラーチャート120色から自由に選ぶことができますので、どのようなインテリアデザインともマッチさせることができ、ワーキングスペースの家具など内装デザインを損なうことなく自由にお洒落にリスニング環境を構築することができます。

そして、取り付け金具のオプションも非常に豊富ですので、天井や壁に取り付けたり、デスクの上に設置したりと、自由なレイアウトを行うことができるのも魅力のひとつです。
Genelec アクセサリー・カタログ

Genelecのスピーカーは、世界中の音楽スタジオや放送局で、まさにデファクトスタンダードとして選ばれているので、その音質は折り紙付き。Genelecの正確な再生は、世界中の音のプロフェッショナルに選ばれていることで実証されています。
ワーキングスペースに適切なBGMや環境音を流すことにより、マスキング効果や、メンタルヘルス効果を得ることができるのですが、いくらコンテンツにそういった効果があっても、それを再生するスピーカーが正確な仕事をしていないと全く意味がありません。「とりあえず音が出ていれば効果あるんじゃない?」と思われるかも知れませんが、実は、耳と脳は自分で思っているよりはるかに繊細で敏感なのです。心地よく感じる音を言葉で表すのは至難の業ですが、逆に、聴けば誰でもすぐに判ります。せっかくの音響改善ですので、是非、より良い音でコンテンツを流してみてはいかがでしょうか。

次に、ワーキングスペースにパーティションを導入し、ノイズ源をブロックする方法を紹介します。
特にオープンなレイアウトのオフィスで、最も頻繁に発生する「ノイズ」は、社員同士の会話です。 1mの距離での通常の音声は約60 dB(A)であることがわかっています。電話の呼び出し音、話している人など、バックグラウンド ノイズは、個人の集中力を乱す可能性があります。だからと言って、こうしたのノイズが一切オフィスからなくなると、逆に、異なるチーム/アクティビティ間の音声プライバシーに悪影響を与える可能性がでてきます。つまり、何を話していても、フロアを共有している人に全て筒抜けという状態になってしまうわけです。
実は、バックグラウンド ノイズは、オープンなレイアウトのオフィスにおいて、集中を損なう会話ノイズをマスクするのに役立っているのです。ただ、バックグラウンド ノイズのボリュームが大きすぎると、元も子もありません。
ヨーロッパなどのガイドラインでは、オープンなレイアウトのオフィスの場合、安定したバックグラウンドノイズをNR40前後にする必要があると規定されているそうです。そして、これは、ワーキングスペースに適度なパーティションを導入することにより比較的簡単に実現することができます。
オフィスの音響改善

Vicoustic

室内音響の調整アイテムとして今回ご紹介するのは、ポルトガルの室内音響ソリューションメーカー「Vicoustic」です。 Vicoustic は、音のプロフェッショナルたちが活躍する音楽スタジオや、シビアな耳を持つHi-Fiオーディオのファンに広く愛用されており、その効果はまさにプロクオリティです。通常、室内音響を調整する場合、そういったノウハウを持つ専門業者に依頼し施工を行うことが多いと思いますが、その場合、大変大掛かりな工事になる上に、大変なコストがかかってしまいます。また、ウェブショップなどで、室内音響調整用のスポンジやパネルなどを購入し、DIYで施工することもできるのですが、ウェブで見つけることのできるアイテムは、グレーや白といった、お世辞にも見た目が良いと言えないものが非常に多く、せっかく家具などインテリアに凝ったオフィスを作っても、それが台無しになってしまいます。「Vicoustic」の製品は、そのような悩みを解決する、プロクオリティの効果と高いデザイン性を併せ持つソリューションです。施工も比較的簡単で、自立スタンドから、吊り下げタイプなど様々なオプションがあります。
以下に Vicoustic を使ったオフィスの例をいくつかご紹介いたします。

会議室の音響改善

次に、会議室の音響改善の例をご紹介いたします。
最近、テレワークや、異なるオフィス間のコミュニケーションで、ウェブ会議を行うことが増えてきたという方、きっと多いと思います。
ウェブ会議においては、ビデオの画質より、音質の良さが圧倒的に重要になります。声が明瞭に聞き取れなければ、会議は成り立ちません。しかし、せっかく電子会議用の専用マイクを導入してみたけど、なんだか聞き取りにくい…という経験をされた方も少なくないと思います。
この原因は、2つあります。
1つは「マイクなど音響機器の性能」。そして、もう1つは「部屋の反射」です。

ウェブ会議に使用する音響機器の改善

弊社グループでは、プロのサウンドエンジニアが使う機器を中心に様々なブランドを取り扱っておりますが、今回はその中でも、取り扱いが簡単なものを中心にご紹介したいと思います。
ウェブ会議では、PCを使いネットに音声を配信することになるのですが、その際の音質を決定する重要な機器が3つあります。
1つは「オーディオ インターフェイス」。もう一つが「マイクロフォン」。そして、最後に「スピーカー」です。
オーディオ インターフェイスとは、PCにUSB接続して音の入出力を処理する専用のディバイスです。PCに付いているマイクを使ってウェブ会議を行うのとは次元の違う、クリアで「伝わる」音声を届けることができます。

RME / Babyface Pro FS

RME Babyface Pro FS
ドイツのプロフェッショナル音響機器ブランドのRMEは、その正確な再生と安定したドライバーにより、世界中に多くのファンを持つブランドです。そのRMEの中でももっともウェブ会議に適したモデルがこのBabyface Pro FSです。
真ん中のジョグシャトルは、直感的にボリュームを変更することができますし、一時的にマイクの音声を小さくする(またはOFFにする)DIMボタンも付いています。そして、ここからが他のウェブ会議用のマイクにはない機能なのですが、このBabyface Pro FSは、小型のデジタルミキサーの機能も持っているのです。これはつまり、YouTubeやウェブブラウザーといったPC内のアプリやソフトウェアで再生した音声、または、iPhoneなどスマートフォンなど外部機器から再生される音声を自由にマイクの音声にミックスして、相手に届けることができるのです。さらに、マイクの音声を聞き取りやすくするためのEQ機能も内包していますので、例えばマイクの低音をカットして聞き取りやすくすることもできます。まさに、ウェブ会議に必要な機能が全て入っているオールインワンモデルです。さらに、PCとの接続は、USBケーブル1本で、電源も必要ありません。
そして、このBabyface Pro FSに接続するマイクロフォンとスピーカーとしておすすめなのが以下の2機種となります。

Austrian Audio OC818

Austrian Audio
このマイクの特徴は、指向性を切り替えることができるところにあります。
指向性とは、マイクが収音する方向のことです。単一指向性は収音するエリアが前面のみになりますので、一人や少人数の会議に最適です。また、双指向性を使うと、収音のエリアが前面と背面になりますので、向かい合ったレイアウトでの会議にぴったりですし、大人数の会議には、全指向性を使うと良いでしょう。

Genelec 8010


先ほどご紹介した4420A Smart IPスピーカーとルックスは似ていますが、こちらのモデルは、デスクトップでの使用に最適なシンプルモデルとなります。
8010のサイズは、H 195 x W 121 x D 116 mm(Iso-Pod™ 含む)となっており、デスクトップに設置するにも壁や天井に吊るすにも最適なモデルです。
GENELEC 8010A
また、デスクトップに設置した際も、付属のIso-Pod™ で、スピーカーに角度をつけられるので、大変便利です。
もちろんカラーも、先述のRALカラーの120色から自由に選ぶことができます。
接続には電源ケーブルと音声のケーブルが必要ですが、小さなボディからは想像のできない、クリアでラウドな音が出るため、ウェブ会議にはぴったりのスピーカーです。

*Genelecの8010はもう少しサイズが大きい8020や8030など、サイズのバリエーションがあります。部屋のサイズに合わせて適切なモデルをお選びください。

部屋の反射を改善する – Vicoustic

次に、部屋の反射の改善についてお話をしたいと思います。みなさんの会社の会議室の壁はどんな感じでしょうか? きっと石膏ボードなどの白くて硬い壁、もしくは、ガラスでできた壁が多いのではないかとおもいます。これらは、実は、音響的にはあまりよくありません。脳内で自動補正のおかげで普段そこで会話をしている分には余り気になることもない場合がありますが、壁やガラスはかなり音を反射しています。その様な反射の非常に多い環境で会議をおこない、その会議の音声をマイクで収録して相手先に届けているということになります。このブログの冒頭でお伝えしたことを思い出してください。マイクは脳内でのフィルター処理がかかっていない ”すっぴん” の「音」を収録しています。自分達は気になっていなくてもウェブ会議の相手先では、みなさんの声が壁に反射した音と共に届いてしまい、お風呂で喋っているような妙に響いた音になっていたり、さらには特定の周波数が打ち消しあって、随分と聞き取りにくく不明瞭な音声になっているのです。
下のビデオでは、音の反射をわかりやすく解説しています。ホームシアターでの反射に関してのシミュレーションですが、部屋のサイズを考えても会議室などでも同様の反射が起こっていますので、きっと参考になるはずです。
音源から直接鼓膜に届く音を「直接音」と呼びますが、音源は同時に天井や壁に反射します。これを「初期反射」と呼びますが、これらの音は、壁に反射し他時に形(音の波形)が変化しています。(ビデオでは、虹色で表現されています)そして、その初期反射音が、ダイレクト音と混ざって鼓膜に届くことにより、音が聞き取りにくなります。反射の多い会議室では、様々な反射が様々な方向で起こっており、会議室で音が聞き取りにくくなるのは、これらが原因であることがほとんどです。
この反射は、Vicousticの吸収と拡散を行うパネルをいくつか導入することで簡単に解消できますが、コツは、やりすぎないことです。もし壁の全面が吸音素材で覆われていると、部屋から全く反射音がなくなってしまい、逆に音声が通らなくなったり、息苦しく感じてしまったりします。部分的に吸音と拡散の処置をすることで劇的に会議室の音響を改善することができます。

どこに何を何枚貼れば良いのか?また、どの様にパネルを設置するのが良いのか?などなど、導入に関する疑問は専門スタッフよりご案内可能です。

 

Vicoustic 導入のご相談窓口

また、Vicousticではシミュレーションソフトを使った本格的なコンサルティングも行なっております。
ご興味のある方は、下記フォームに部屋の情報を書き入れていただき、ご気軽にご相談いただければと思います。

Vicousticについて相談する(フォーム)

微妙な声のニュアンスとビデオ映像が合わさることにより、距離を感じないナチュラルな会話を行うことができるようになり、ウェブ会議がより充実し、生産的になります。これからのビジネスには必須のアイテムとして、是非この機会にウェブ会議のシステムを見直してみてはいかがでしょうか。


使用機材

Vicoustic

Vicoustic

エレガントなデザインと機能性を両立したポルトガルの室内音響ソリューション・ブランド

Babyface Pro FS

RME Babyface Pro FS

12イン/12アウト 24bit/192kHzサポート USBバスパワー対応 プロフェッショナル・オーディオインターフェイス

OC818

Austrian Audio OC818

マルチパターン&デュアル出力コンデンサー・マイクロフォン

4420A

Genelec 4420A

Smart IPスピーカー。LANケーブルのみで接続可能。

8010A

Genelec 8010A

非常にコンパクトな筐体で持ち運びにも便利なスタジオ・モニター