IEM Plug-in で行うアンビソニックス制作
オープンソースのアンビソニックス制作ツール ” IEM Plug-in Suite ” 。現代Ambisonics理論の震源地であるオーストリアのグラーツ大学より、本ツールの作者であるダニエル・ルードリッヒ氏を緊急招集。まさに「今」現場で求められているAmbisonicsの制作に関するレクチャーとツールの紹介が行われました。
VRゲームや360度動画などの分野で活用される、全方位360度を再現することのできる再生方式「アンビソニックス」。そして、録音方式やアウトプットの方法に囚われず、楽曲とDAWだけでアンビソニックス作品を制作することのできるプラグイン「 IEM Plug-in Suite 」の紹介や使い方について、開発者であるグラーツ大学のダニエル・ルードリッヒ氏により紹介されました。
アンビソニックスを始めるのには、特別な専用マイクも、高価な機材も必要ありません。必要なのはいつものオーディオファイルと、オープンソースのVSTプラグイン「IEM Plug-in Suite」、あとはヘッドホン(スピーカー)だけ。たったこれだけで、誰でも簡単にアンビソニックス・コンテンツを作ることができます。
2018年11月下旬に開催された本セミナーは、東京 Sound City Annex T1 Studio/大阪 三和レコーディングスタジオにて計4回の講演が行われ、計100名程の受講者様にご来場頂きました。いずれの会場でも、Genelec The Onesシリーズを中心とした計12個のスピーカーを7.4.1chの半円形に配置。その中心に座席を設け、実際にアンビソニックスを体験して頂きながらの講演となりました。
講師
ダニエル・ルードリッヒ氏 | Daniel Rudrich
グラーツ国立音楽大学
ミュンヘン工科大学で電気工学を学ぶ。2011年、オーストリアのグラーツの工科大学、音楽大学、そしてグラーツの舞台芸術で、電気工学と音響工学を学ぶ。2017年、グラーツの電子音楽音響研究所に入社し、博士課程の取得を開始。 Ambisonicsの3D音響録音における音源のパラメータ化に焦点を当てた研究を行う。
セッション内容
【1】アンビソニックスとは
「Ambisonics(アンビソニックス)」とは、イマーシブ3Dオーディオのフォーマットの一種。360度、球体の音場での録音と再生を行うことができる、シーンベースのフォーマットです。上下・左右・前後+全方位の4つのチャンネルで構築される「1次アンビソニックス」を基本とし、2次、3次…と次元数が増えるに従って高解像度になって行きます。
今回紹介されたIEM Plugin-Suiteは、最大64chの「7次アンビソニックス」の制作まで対応。会場ではデモンストレーションを行い、実際に次元数の違いを体験して頂きました。
【2】オーディオのデコードとアウトプット
では、アンビソニックス・コンテンツをどのように制作し、再生すれば良いでしょうか。ただの音声ファイル(A format)をアンビソニックス用のフォーマット(B format/AmbiXなどが主流)に変換し、それを再生用にデコードするまでの仕組みや流れが、現場の写真と共に紹介されました。
沢山のスピーカーを並べる環境の場合は、プラグイン上で任意のスピーカーレイアウトを構築できます。また、ヘッドホンを用いたバイノーラル再生用にデコードすることももちろん可能。「僕は日本に来る飛行機の中で、今日の講義のためのファイルを作ったんだ」とダニエル氏は語ります。
【3】IEM Plug-in Suiteとは
さて、いよいよ今日の本題、ダニエル氏の所属する電子音楽音響研究所(IEM)のスタッフと学生が開発したオープンソースのプラグイン「IEM Plug-in Suite」の紹介がされました。モノラルやステレオのソースをAmbisonics化できる「StereoEncoder」や入力信号の分布を球状で視覚化できる「EnergyVisualizer」など、主要なプラグインをサウンドと共にレクチャー。ヘッドトラッカーを用いたソースの移動も実際に体験でき、受講者からは感嘆の声が上がりました。
【4】デモ音源試聴
最後に、実際のアンビソニックス作品の試聴が行われました。グラーツ大学の学生が制作した、自然音をフィールドレコーディングしアンビソニックス化した作品などを試聴。あまりの没入感と”リアルさ”に、受講者もスタッフも圧倒された様子でした。
ダニエル氏は、このIEM Plugin-Suiteセミナーの他、InterBEE 2018会場でのセミナーでもご登壇頂きました。「アンビソニックスという技術を日本に広めたい」という想いで来日したダニエル氏。「イマーシブやアンビソニックスは、人を別空間に移動させ、感動させることができるメディアです。この素晴らしい技術を、ぜひ多くの人に気軽に体験して頂けると嬉しいです」と、セミナーを締めくくりました。
受講者の皆様には、IEM Plugin-Suiteのセットアップ・ガイドに加え、実際に講義で使用されたプレゼンテーションファイルを配布。また、後日IEM Plugin-Suiteの情報交換所として、facebookのグループが開設されました。たった1回のセミナーだけではなく、それ以降も情報交換をできるコミュニティとして継続的に活動しています。
受講者様からの声
- オーディオ関係は環境に依存するため制作の際の悩みでしたが、とても画期的な内容でした。知識が追いつくか不安でしたが、問題なく理解することができました。
- 従来のイマーシブサラウンドとは異なり、手軽で、ライトユーザーに届けやすいことに興味を持ちました。
- 簡単にアンビソニックスコンテンツを再生できるソフトウェアがリリースされたら、爆発的に広がるのではないかと思いました。
作曲家やエンジニア、教育関係者や研究機関の方など、老若男女問わず幅広い層のお客様にご来場頂きました。アンケートのご意見は、総じて「非常に素晴らしかった」「ぜひ導入してみたい」という声がほとんどでした。ご来場頂きました皆様、誠にありがとうございました。
IEM Plug-in ワークショップでの使用機材
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「最先端の音響で、全てのビジネスを一歩先へ。」
シリーズ第2回目となる2019年5月、イマーシブ・オーディオ(立体音響・没入型サラウンド)に関するワークショップが国内3箇所で開催されました。
現在、音楽だけなく様々な業界でニーズが高まっている「イマーシブ・オーディオ」。今回は、イマーシブの現場の最前線で世界的に活躍される3名が登壇。 ORFオーストリア放送協会のフローリアン・カメラー氏、”サラウンド将軍” Mick沢口氏、そして、日本初のAmbisonicsアルバム制作者 江夏正晃氏。各講師より、イマーシブに関連する基礎知識や録音/再生技術、また制作した作品の紹介や、より実践的なノウハウについてお話し頂きました
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