空間オーディオ制作に必要なハードウェア環境
Dolby Atmos MusicやSONY 360 Reality Audioにおける空間オーディオの配信が一般化され、音楽を制作する際の「キャンバス」も、長らく続いた平面ステレオ(2D)から、大幅に拡張されたイマーシブ(3D)へと拡張しています。このような変化の中、大型の商業スタジオでは、いち早く立体音響への対応が進んでいますが、今後は個人スタジオをはじめとする小〜中規模スタジオでも、立体音響フォーマットでスピーカーを組み、創作活動を行うことが一般化されることが想定されます。
よくある問題として、1ブランドのソリューションでシステムを組もうとすると、どうしても自分に合わない音の好みや、性能の脆弱性や、価格に見合わない機能、他社製品との互換性のなどの問題が発生しがちです。 この場合、DAW、オーディオインターフェイス、スピーカーなど各ジャンルの第一線を行くメーカーが打ち出すメリットを理解して自分に最適なシステムを組み上げることで、高性能、高品質かつコストパフォーマンスの良いシステムを構築できます。
ソフトウェア面では、Dolby Atmos Production Suiteや360 WalkMix CreatorなどをDAWと組み合わせて制作していきますが、本ブログでは、空間オーディオの制作環境に必要になる録音再生機器とスピーカーの条件に焦点を当ててお話を進めてゆきたいと思います。
– 目次 –
① オーディオインターフェイス/マルチチャンネルDAコンバーター
オーディオインターフェイス
まずは、オーディオインターフェイスに求められる要素を整理してみたいと思います。
マルチチャンネルのオーディオインターフェイスやDAコンバーターは作業する際のモニタリング環境に直結する部分ですので、ここが如何に正確な音であり、シームレスな作業を行うための安定性と柔軟性を持っているかが、極めて重要となります。
多くのオーディオ・インターフェイスやDAコンバーターが存在しますが、その中でも国内外でイマーシブシステムの導入実績が多いことでも知られるRME社の製品は、圧倒的な信頼性とコストパフォーマンスを両立します。
RMEでオーディオ・インターフェイス、AD/DAコンバーターを導入する利点としては、様々なラインナップから必要なチャンネル数や端子を選んで組み合わせることができることと、搭載される全ての入出力は独自プロトコルではなくAES基準ですので、将来的にシステムを拡張したい時、トラブルシューティング時などにも安心です。
マルチチャンネルの規格としては、最近ではDanteやAVBなどに対応する製品も出ていますが、大規模な設備ではなくスタジオ単位の場合、プラグアンドプレイでレイテンシーも最も低いMADIがシンプルでおすすめです。
また、12chまでなら単体のRMEインターフェイスに搭載されるI/Oだけでもイマーシブシステムを構築できます。
少し余談になりますが、RMEのオーディオインターフェイスを使う場合、モニターコントローラー「ARC USB (Advanced Remote Control USB)」は必ず押さえておきたいところです。
Solo/Muteや、Dim、Volumeのリコール、ニアフィールド・モニターの切り替え、TalkBackなどは、快適なスタジオ環境の構築に必須の機能です。
RMEオーディオインターフェイスに標準搭載されるTotalMix(ミキサーソフト)は、これらのすべての機能を持っており、ARC USBから直感的にコントロールすることができます。そして、これらの機能はハードウェアのDSPで処理されるため、CPUに負荷がかかりません。
高価なハードウェアのモニターコントローラーを購入することなく、これらのモニターコントロール機能を使用することができるのは魅力的ではないでしょうか。
モニタースピーカー
複数の音を複数のスピーカーから鳴らすと、位相がずれたり、部屋の反響音の特性によって正しくモニタリングできなかったりという問題がよく起こります。
世界標準のITU-Rスピーカー配置に基づき、寸分の狂い無くスピーカーを配置できれば上出来ですが、厳密にスピーカーを正しい位置に設置した場合でも、どうしてもスピーカーの個体差や部屋の反射などが影響してしまいます。単にスピーカーを正確に配置しただけで、正しく音像を結ばせることは、実はそれほど簡単なことではありません。
ましてや、個人スタジオのような環境ですと、どうしてもスピーカーの置き場所に制限がでますので、ITU-R勧告のスピーカー配置どおりスピーカーを配置することが難しい場合がほとんどです。
この問題について早くから着眼し、テクノロジーを開発してきたパイオニアは、あの有名なGenelec社です。
同社が開発したGLM™(Genelec Loudspeaker Manager)で、個々のスピーカーのキャリブレーションを行うことができ、室内における周波数応答、ディレイ、リスニング・レベルを自動的に調整することが可能です。
キャリブレーションというと、いままでは、専門の業者に依頼し、時間と手間とコストをかけて調整していたのですが、GLMを利用することで、色々な環境において最適なモニタリング環境を誰でも簡単に構築することができるのです。
GLMによるスピーカーのキャリブレーション
GLMによるスピーカーのキャリブレーションは簡単です。
上記のようにスピーカーとGLMネットワーク・アダプターをLANケーブルで接続したら、GLMキットに付属の校正済みマイクロフォンをリスニングポイントに設置し、GLMソフトウェアを使いキャリブレーションをスタートするだけ。
スピーカーからスイープ音が再生され、マイクがその音を捉え、スピーカーの距離と部屋の反射の影響を計測します。
スピーカーの本数やインターネット環境により計測時間は変化しますが、一般的な立体音響セットアップであれば、せいぜい数分です。
計測が終わると、画面に下図のような結果が表示されます。
もちろん、上記キャプチャー画面の下半分のセクションにて、補正の微調整を手動で行うこともできます。
しかも、計測し補正を行なった結果は、GLMソフトウェアの中にプリセットとして複数保存することができますので、作業時のリスニングポイントと、クライアントが座っているソファーなど、複数のリスニングポイントを簡単に切り替えながら運用することも可能です。(下記スクリーンキャプチャーの左側のセクション)
それだけではありません。
GLMには、接続されたスピーカーを監視したりコントロールする機能も備わっています。
各スピーカーの入力信号チェックやSolo/Muteはもちろん、スピーカー電源のON/OFFもアプリケーションから一括で行うことが可能です。
便利ですよね! というか、逆にGLMなしで立体音響のスピーカーを組み運用することを考えると、ちょっとゾッとしますよね。
では、次にGLMが使えるGenelecの代表的なモデル(小〜中規模スタジオ向け)をご紹介します。
SAM™は(Smart Active Monitoring)の略となり、イコールGLMを使ってキャリブレーションが行える機能を持つモデルということになります。
GLMバージョン4.1からは、設置される部屋のサイズやご予算によって、SAM™コンパクトモニターとSAM™同軸モニターをサイズも含め自由に組み合わせても、キャリブレーションが正確に行えるようになりました。(正確には約100Hzまでの帯域で平坦な位相特性を得ることができるようになりました)
この機能により、例えば、TheOnesの8341AをLCRに配置し、その他のサラウンドスピーカーとハイトレイヤーのスピーカーをSAM™コンパクトモニターの小型モデル、8331Aを組み合わせ使用することもできるようになり、スピーカーの選択の自由度が高まりました。
L/Rはステレオの仕事をするときのために少し大型のThe Onesで組み、それ以外のサラウンドスピーカーは安価な小型のスピーカーで、ということも可能です。
充実の吊り金具などオプションのアタッチメント
Genelecは、スタンドや壁面取り付け用金具や天吊りの金具など、設置用のオプションが豊富なことも特徴です。
空間オーディオにはハイトレイヤーが必須になりますので、この辺りのオプションが充実していることは非常にポイントが高いのではないでしょうか。
アクセサリーに関する詳細はこちらのGenelecアクセサリー・カタログをご覧ください。
ルームアコースティックの調整
GLMを使うことにより、すぐにでも制作作業をスタートできる状態までモニタリング環境の追い込みができたかと思います。
また、GLMの測定結果から、部屋の特性を掴むこともできたのではないでしょうか。
様々なサイズや壁質により、部屋自体の共鳴音やディップなどが発生し、それがモニタリング環境に悪影響を及ぼします。
これらの問題は、EQなどでは修復することが不可能です。
そこで必要になるのが吸音材、拡散材、ベーストラップなどを使った反響音対策です。
Vicoustic社では、多彩な機能性とデザイン性をもつラインナップを幅広く用意しており、クリエイティブな空間演出にも最適なソリューションとして、国内外の多くの商業スタジオ、個人スタジオに導入されています。
また、部屋の図面や素材を送ることで、最適なプランを出してくれることも魅力です。 ご興味のある方は是非ご気軽に弊社までお問い合わせください。
では、最後に、具体的なセットアップ例と接続例を見ていきましょう。
【12ch再生システム】
シンプルでコストエフェクティブな構成で12chまで対応します。
システム概要
- Dolby Atmos(5.1.2、5.1.4、7.1.2、7.1.4、9.1.2)対応
- 最大24bit/192kHz対応
- バイノーラルモニタリング用ヘッドフォン端子
推奨機器セット1
Fireface UFX IIインターフェイス1台で、10ch(5.1.2/5.1.4/7.1.2)まで対応可能
推奨機器セット2
Fireface UFX IIインターフェイス1台にADI-2 DAC FS1台を追加することにより12ch(7.1.4)の制作環境に2chの高品位なヘッドフォンモニタリング環境を追加
対応スピーカーレイアウト例
Fireface UFX IIの、2つのヘッドフォンポートを使用すれば高品質のライン出力(アンバランス)として使用できるため、TRS Stereoからアンバランス MonoのXLR 2系統に変換を行うY字ケーブルで分岐すれば、最大12chのDAにまで対応し、Dolby Atmos 5.1.2、5.1.4はもちろん、7.1.2、7.1.4、9.1.2のレイアウトを構築可能です(ヘッドフォンポートをライン出力で使用するための詳細はこちらでご確認いただけます)。ADATで接続されたADI-2 DAC FSは、リファレンス品質の2chモニタリングを提供します。また、ADI-2 DAC FSは高インピーダンスのヘッドフォンの接続に最適な端子、及びインイヤーモニター用のIEM端子を搭載するため、リスナーを意識した2chのイマーシブオーディオのミックス確認に最適です。
将来MADIでチャンネル数を拡張する予定がある場合は、MADI搭載モデルのFireface UFX+をFireface UFX IIの代わりに使用できます。
*Genelecは、ルームサイズとご予算により自由に組み替えていただけます。
▶︎ 推奨機器 製品ページ: RME Fireface UFX II / RME Fireface UFX+ / ADI-2 DAC FS
【16ch 再生システム】
Dolby Atmos 5.1.2、5.1.4は、もちろん、7.1.2、7.1.4、9.1.2にも対応するシステムです。また、Sony 360 Reality Audio(5.0.5+3)にも対応します。
システム概要
- Dolby Atmos(5.1.2、5.1.4、7.1.2、7.1.4、9.1.2)対応
- Sony 360 Reality Audio (5.0.5+3)対応
- 最大24bit/192kHz対応
- バイノーラルモニタリング用ヘッドフォン端子
推奨機器セット1
RME MADIface XTとFerrofish Pulse 16 MX をMADIで接続した拡張性の高いシステム
推奨機器セット2
RME MADIface XTとハイエンドDAとしてRME M-16 DAをMADIで接続
対応スピーカーレイアウト例
*Genelecは、ルームサイズとご予算により自由に組み替えていただけます。
▶︎ 推奨機器 製品ページ: RME MADIface XT / Ferrofish Pulse 16 MX / RME M-16 DA
【32ch再生システム】
NHKの22.2フォーマットにも対応できる32チャンネルのシステム構成となっています。
システム概要
- Dolby Atmos (5.1.2、5.1.4、7.1.2、7.1.4、9.1.2) 対応
- Sony 360 Reality Audio (5.0.5+3)対応
- NHK 22.2 対応
- 最大24bit/192kHz対応
- バイノーラルモニタリング用ヘッドフォン端子
推奨機器セット
RME MADIface XTにフラッグシップモデルであるRME M-32 DA ProをMADIで接続
対応スピーカーレイアウト例
*Genelecはルームサイズとご予算により自由に組み替えていただけます。
▶︎ 推奨機器 製品ページ: RME MADIface XT / RME M-32 DA Pro
いかがでしたでしょうか?
Genelecのサイズやモデルも多数選択肢がありますし、再生インターフェイスも、 チャンネル数によっては、MADIをDanteやAVBに変更することも可能だったりと、実際には、ここには書ききれない細かい仕様やTipsなどがたくさんあります。
また、導入を検討されている方は、何より、その音質と設置方法を自分の目で耳で確かめたいということもあるかと思います。
立体音響での制作環境をご検討中の方は、 モデル選定のご提案、デモ機のお貸出し、弊社ショールームでの試聴などなど、是非ご気軽にご相談をいただければ幸いです。