Zoom で音楽を配信する

ビデオ・ミーティングサービス ” Zoom ” で音を配信する

Zoom で音楽を流したい時、皆様はどのようにされていますか?
ウェブ会議中にYouTubeのビデオを参考資料として流したり、音楽を流したりしたいこと、結構ありますよね。その方法を知らず、例えばスピーカーから再生された音楽をマイクを使い収録してZoomで流してしまうと、音が途切れたりノイズに埋もれたりしてしまって、「音楽の良さが全然伝わらない……むしろ雑音にしかならない!」ということを経験したことがある方も多いのではないでしょうか?
特に音楽制作に携わる業界では、クライアントに製作途中の音楽を聴いてもらう、リアルタイムで修正の指示を仰ぐ、音楽ソフトの使い方をZoomでレクチャーするといったシチュエーションが多く発生します。その際、音楽が「正しく」伝えられないと大変致命的なのです。また、ダンスやヨガなどのリモートでのレッスンなど、音楽の再生を伴うシーンにおいても「音楽」はとても重要ですよね。Zoomでは音声が圧縮されるため原音(非圧縮のまま)伝送することはできませんが、いくつかの設定を見直すことで、用途によっては必要十分なクオリティで音楽の伝送を行うことが可能です。
この記事では、Zoomの高音質化を行う設定方法を、出来るだけわかりやすく解説したいと思います。
 

この記事でわかるZoomのこと

  • 音楽を「ステレオで」配信
  • マイク音声を高音質に
  • iTunes / YouTube から再生
  • DAW から再生
  • おすすめの機材

 


 

Zoom : ステレオでの再生

みなさんが日頃耳にしている音楽は、基本的に「Left」と「Right」の2チャンネル、つまり「ステレオ」で作られています。しかしZoomでは、送信者側がステレオで送るように設定していないと「モノラル」で送信されてしまいます。ウェブ会議ではモノラルで必要十分ですが、モノラルでは、音楽作品を正しくリスナーに届けることができません。
ということで、まず最初に、ステレオ再生の設定について解説をしたいと思います。
 

ステレオ再生 : 前提条件

【1】有償アカウントである
無償アカウントの場合ステレオ音声の発信はできません(v 5.0.2)が、有償アカウントであれば可能です。
【2】送信元がステレオで音声を配信している
配信側(有償アカウント)の設定が正しくなされていれば、ミーティングの参加者が無償アカウントでも、その音声をステレオで聞くことができます。
※ステレオ再生での配信は無償アカウントではできません。ご注意ください。
では、早速設定を確認してみましょう。
 

ステレオ再生 : 設定

1. 画面右上にある歯車のアイコンをクリックしてください。
Zoom 設定アイコン
2. 左のカラムより「オーディオ」を選択。切り替わった画面の下の方「ステレオを有効にする」にチェックを入れます。
Zoom オーディオ設定
 
※「ステレオを有効にする」というチェックボックスがウィンドウに表示されていない場合
Zoomのウェブサイトから「マイアカウント」にサインインして、左の「設定」メニューをクリック
→切り替わった画面を下の方にスクロール
→「ユーザーはクライアント設定でステレオ音声が選択できる」と書かれたスイッチがありますので、これをONにしてください。
もしスイッチがグレーアウトしており変更ができない場合は、管理者権限を持つ方(admin)に変更を依頼する必要があります。
なお、この後に続く「Zoomの高音質化」のチャプターにて必要になりますので、このタイミングにて1つ下の「ユーザーはクライアント設定でオリジナル音声が選択できる」も一緒にONにしておきましょう。
 
Zoom マイアカウント設定
 
以上で、Zoomのステレオ配信の準備は完了です。
 


 

Zoom : 高音質化のための設定

Zoomは元来ミーティングのためのアプリケーションですので、マイクを通じて入力される人の喋る声をより聞き取りやすくするために、バックグラウンドでノイズ除去やエコー除去といった様々な処理を行なっています。この後の章にて説明する「コンピューターの音声を共有」には直接影響しない設定ではありますが、マイクの音質を調整することにより、よりクリアに音声を届けることができるようになりますので、必要に応じて設定を変更してみてください。
 

高音質化 : 設定

1. 設定画面の右下の「詳細」ボタンをクリックしてください。
Zoom オーディオ詳細設定
 
2. 詳細設定のウィンドウにて下記の3項目をそれぞれ設定します。

  • 連続的な背景雑音の抑制 → 空調のノイズなど常に流れているノイズを抑制します。
  • 断続的な背景雑音の抑制 → キーボードのタイピング音など、瞬間的に発生するノイズを抑制します。
  • エコー除去 → この項目がOFFになっていると自分の声が、やまびこのように繰り返し聞こえてしまいます。

 
一緒に「インミーティングオプションをマイクから”オリジナルサウンドを有効にする”に表示」のチェックボックスにもチェックを入れるのを忘れないようにしてください。
ここにチェックを入れると、ミーテイング参加中にオリジナル音声を有効化するボタンが表示され、オリジナル音声を有効化することでエコー除去を無効化することができるようになります。
Zoom オーディオ詳細設定
 
なお、「連続的な背景雑音の抑制」と「断続的な背景雑音の抑制」は、「自動」「適度」「強度」「無効化」の4段階から選ぶことができます。上記のスクリーンキャプチャーでは「無効化」が選ばれていますが、常に「無効化」が正解とは限りません。
これらのノイズ抑制の項目はデフォルトで「自動」になっていますが、例えば、ノイズがひどい時は「強度」に設定してみてください。
ノイズは強力に抑制されますが、同時にノイズ抑制の副作用で自分の喋っている声も変化してしまい、場合によっては参加者にとって聞き取りにくい音声になってしまう時がありますので注意が必要です。
逆に「適度」に設定をしますと、ノイズ除去の効果は減りますが、マイクの音声自体はクリアになり、自然で聞き取りやすい音声に近づきます。
 
【まとめ】
ZOOMでの配信は、できるだけノイズのない静かな部屋で行いましょう。
そうすることにより、ノイズ抑制を「適度」か「無効化」に設定することができ、より自然で聞き取りやすい音声で会話を行うことができます。
なお、ノイズ抑制効果のチェックは「マイクのテスト」で行うことができます。チェックはヘッドフォンで行うのがおすすめです。
クリックすると自分の声が録音され自動的に再生されますので、是非利用してみてください。

 
 
 
 
次に、実際に、Zoomを使った音楽のストリーミングをセットアップしてゆきたいと思います。
 


 

Zoom:音楽を再生する

まず最初に、基本のパターンとして、「音楽再生ソフトとMCが1人」というシチュエーションの、シンプルなセットアップを考えてみましょう。
 
Zoom シンプルなセットアップ
 
ここでは、もっとも一般的な音楽再生ソフトとして「iTunes」「YouTube」を、そしてDAWは、軽い動作と高音質でおなじみのPreSonusの「Studio One」を具体例として設定方法をステップ・バイ・ステップで解説します。基本的な考え方はどのソフトも同じですので、他のソフトを使った場合もおおよそ同じような設定を行えばうまくゆくと思います。
 

iTunes/YouTubeの設定

 

Windows / Mac 共通

1. Zoomのアプリケーションを起動、新規ミーティングを作成し、ウィンドウから「画面を共有」をクリックします。
Zoom 画面を共有
 
2. 共有画面選択のウィンドウの左下「コンピューターの音声を共有」のチェックボックスにチェックを入れます
Zoom コンピューターの音声を共有
 
Windowsの場合はこの時点で準備は完了です。あとはiTunesやYouTubeを再生すれば、そのまま音声をリスナーに届けることができます。
 

Macのみ

Macの場合は、初回にドライバーのインストールを促されます。指示にしたがってインストールをしてください。
Zoom Zoomオーディオディバイス
次に、Zoomで画面共有を行い「コンピューターの音声を共有」にチェックが入った状態でiTunesを起動します。すると、macOSの「システム環境設定」>「サウンド」の「出力」に「ZoomAudioDevice」という項目が表示されるため、これを選択します。
 
Mac システム環境設定
Mac サウンド出力
 
Macの方もこれで準備は完了です。
 
早速iTunesやYouTubeを再生をしてみましょう。
Macの場合、iTunesのボリュームは、上記のmacOSの「システム環境設定」>「サウンド」の「出力」上に表示されているボリュームスライダーと、下記の iTunes のトランスポート部分にあるボリュームの両方を使って調整することができます。音楽のジャンルにもよりますが、「サウンド」の「出力」上に表示されているボリュームスライダーは小さめに設定し、配信中は、iTunes のトランスポート部分にあるボリュームを使いボリュームを適時調整するのが良いと思います。
Zoom iTunes Volume
 

Windows / Mac 共通

次に、Zoom側のオーディオ設定です。マイクと自分用のモニター音の設定を行います。
※筆者の場合、スピーカーはMacの内蔵スピーカー、マイクはコンピューターに接続されたRMEのBabyfaceを使い外部マイクを使用しているため下記のような設定になりますが、ここはそれぞれの環境に合わせて設定を行うようにしてください。
Zoom オーディオ設定
 
設定は以上です。
iTunesの再生ボリュームとマイクの音声バランスを慎重に整えてから本番に臨んでください。
 

Studio One (DAW) の設定方法

Macの場合

Studio Oneや他のDAWソフトを使う場合でも設定方法はiTunesと同じで、オーディオディバイスとして「ZoomAudioDevice」を選択するだけです。
Studio Oneの場合は、環境設定ウィンドウの「再生ディバイス」にて「ZoomAudioDevice」を選択します。
StudioOne 環境設定
 

Windowsの場合

オーディオディバイスとして「Windows Audio」を選択します。
Studio One 環境設定
この際に、セッションのサンプルレートがZoomで使用しているサンプルレートと異なる場合、以下のようなメッセージが表示されますが、Studio Oneは再生時に自動的にサンプルレートを変換して再生してくれるので、そのまま「OK」をクリックして再生を開始していただいて問題ありません。
Zoom SR
 
以上で、再生の準備は完了です。
再生のボリュームは、Studio Oneのマスターボリューム(Main)で行うようにしてください。
Studio One アレンジ画面
 


 

Zoom : 高音質配信 おすすめ機材

PreSonus AudioBox 96 STUDIO

初心者向けのオールインワンパッケージ
presonus-audiobox_96_studio_studioone5音質向上の鍵は、マイクロフォンとPCに音声信号を入力するためのオーディオインターフェイスです。アメリカの定番ブランドPreSonusの「AudioBox 96 STUDIO」は、大型ダイアフラムを搭載したマイクロフォン「M7」と2chオーディオインターフェイス「AudioBox USB 96」、さらには、高い精度で音声ファイルを再生することができる「Studio One Artist」がバンドルになっています。ヘッドフォンやケーブルなど必要なものが全て入っているため、その日からすぐに音楽配信を行うことができます。
 

RME

プロフェッショナルな音質で配信を行いたい方向けのオーディオインターフェイス
RME TotalMix FX セットアップ
お手持ちのマイクや音楽機材を活かし音質をプロフェッショナルレベルに高めた配信をご希望の方、また、複数の演者、複数の入力信号を伴う中規模の配信を行いたい方には、ドイツのプロオーディオブランド「RME」のオーディオインターフェイスがおすすめです。
RMEのオーディオインターフェイスは、ドライバーが非常に優れており、安定性が求められる配信には特におすすめです。また、TotalMix FXというエフェクトを内蔵したデジタルミキサー機能も内包していますので、一台のインターフェイスで複数の入力ソースをエフェクト処理しミックスしてZoomに送ることができるのが特徴です。
 
またウェブ配信に必須の「ループバック機能」ももちろん搭載しております。ループバックの設定方法は以下の記事をご参照ください。

ループバック活用ガイド

 

PreSonus StudioLiveシリーズ

バンドの演奏をそのまま配信したい方におすすめのデジタルミキサー
ZOOM Live
Zoomでライブ配信を行いたい方には、PreSonusのミキサー「Studio Liveシリーズ」がおすすめ。USBケーブルでPCと直接繋がるミキサーで、誰でも簡単にライブの配信を行うことができるようになります。
 
是非、一度試してみてください!
 
 
 
 
 
 


紹介機材

PreSonus Audiobox 96 Studio

PreSonus | AudioBox 96 STUDIO

初心者向けのオールインワンパッケージ

RME Babyface Pro FS

RME | Babyface Pro FS

プロ音質で配信を行いたい方向けのコンパクトなオーディオインターフェイス

Fireface UCX

RME | Fireface UCX

プロ音質で配信を行いたい方向けの18イン/18アウト オーディオインターフェイス

RME Fireface UFX II

RME | Fireface UFX II

プロ音質で配信を行いたい方向けの30イン/30アウト、フラッグシップ・オーディオインターフェイス

PreSonus StudioLive シリーズ III S

PreSonus | StudioLiveシリーズIII S

ライブをそのまま高音質で配信を行いたい方向けのフラッグシップミキサー。入力数とフェーダー数の異なる4種類で展開

PreSonus StudioLive ARc

PreSonus | StudioLive ARcシリーズ

ライブをそのまま高音質で配信を行いたい方向けのハイブリッド・ミキサー。8/12/16チャンネルの3種類で展開

Studio Liveなどミキサー卓は検証機のご用意もございます。是非、お気軽にお問い合わせフォームよりご相談ください。

デモ機の相談をする

御茶ノ水 Rittor Base

音と映像の多目的スペース「御茶ノ水 Rittor Base」

GENELEC・RMEを導入した、マルチチャンネル対応のイベント・スペース

1979年創刊の『キーボード・マガジン』をはじめ、『ギター・マガジン』など数々の雑誌メディアを中心に“音楽する”楽しさを広めてきたリットーミュージック。そうした出版社である同社がこの度、東京・御茶ノ水に注目のイベント・スペースをオープンさせた。その名も「Rittor Base」。音楽雑誌を発行する出版社がこうした自社施設を持つことの狙いとは?また、そこに導入されているGENELEC S360A7380A、RME Digiface Danteが選ばれた経緯とは?
文・取材◎山本 昇 撮影◎八島 崇
 


 
JR御茶ノ水駅。その御茶ノ水橋口の改札を出て、目の前の交差点の信号がもし青であったなら、駅からわずか1分で辿り着くだろう。そんな好立地に2019年春にオープンしたのが「御茶ノ水 Rittor Base」だ。
御茶ノ水RittorBase:國崎氏
「私たちはRittor Baseを多目的スペースと位置づけています。実際に2019年3月のオープンからすでにセミナーやレクチャー、ライヴ、映像収録、試写会、レコーディングと、さまざまな催しを行なってきました」
こう語るのは、当施設の管理・運営を担当するリットーミュージックのスタジオ事業部長、國崎晋氏だ。サウンド・クリエイターのための専門誌『サウンド&レコーディング・マガジン』で20年にわたり編集長を務め、長くレコーディングやSRの分野を見つめながらさまざまな提言を行なってきた人物である。その彼が中心となって作り上げた“多目的スペース”とはいかなる場所なのか。國崎氏へのインタヴューを通じて掘り下げていこう。
 

独自企画を含む多彩なイベントを随時開催

かつては音楽レーベルを立ち上げるなど、音楽制作にも取り組んできたリットーミュージック。現在は『サウンド&レコーディング・マガジン』の名前を冠したDSD配信専門レーベルを、ハイレゾ配信サイトOTOTOYとのコラボレーションで運営している。Rittor Baseは、こうした試みに活用することも可能だろう。
「2010年に、DSDダウンロードを世界に先がけてスタートさせたときはスタジオを借りて制作していましたが、これからはここで録音することも検討していきたいと思っています」
雑誌メディアの自社施設というと、情報発信の意味合いも大きいと思われるが、何か参考にした例はあったのだろうか。
「参考にしたのは、私も何度か出演したことのある〈DOMMUNE〉さんでした。魅力的なイベントを日々開催し、それをストリーミングして世界中に届けるというコンセプトですね。加えて、来場者の皆さんにいい音で聴いてもらいたいので極上のスピーカーを用意しました。」
ここで催されるイベントは、雑誌と連動したものが多いのだろうか。
「そこは本当にいろいろですね。雑誌発の企画があれば、Rittor Baseとしての独自企画もあります。過去には、『ベース・マガジン』主催でエフェクターの聴き比べをしたり、独自企画として映画の試写イベントを行なったりしています」
取材に訪れた日には、ニューヨークのギター・ビルダーを描いた話題の映画『カーマイン・ストリート・ギター』の試写が行なわれていたが、単に映画の上映だけでなく、その工房が制作したギターを実際に取り寄せ、しかもゲストとして招かれたギタリストの高田漣がそれを手にトークし試奏するという、ギター好きにはたまらないプログラムとなっていた。試写会にこうした一工夫を加えることで、来場者が見聞きした体験はより特別なものとして印象付けられることだろう。そして、そうした多様なプログラムはRittor Baseという場所への期待感も抱かせる。
30〜40人というキャパシティは決して広いハコとは言えないが、その分、来場者の1人1人には濃密な体験を保証できることだろう。それを支えているのが、先ほどの國崎氏の言葉にもあるように、最新のクリエイティヴ・シーンを取材してきた立場からのこだわりを体現した映像と音響だ。映画関係者も納得させた映像設備として、4K映像に対応するSONYの超単焦点プロジェクターを導入。また、動画配信のための本格的なリモート・カメラやスイッチャーも備えている。
 

良好な音響特性の意外な理由

この部屋は元々、キリスト教系の宗教施設として礼拝にも使われていたこともあり、防音と遮音はもちろん、左右の壁は後方に広がり、天井も後方に向かって高く傾斜させるなど、定在波が生じにくい設計となっている。
「すでに防音と遮音は完璧にできていましたから、施工の際は音を整える調音に集中できました。壁の表面は石のような素材なので、そのままだと響きすぎますから、カーテンで調整できるようにしています。ただ、それほど広い容積の空間ではありませんので、狭苦しい音にもしたくありません。ある程度、開放感のある音にしたいということで、日本音響エンジニアリングさんに施工を依頼して、『AGS』という音響拡散体を多数導入しています」
さらに、調音するうえで効果的だったのが床面に使用した木材だと言う。
「ローズウッドというギターの指板にも使われる高級材で、コストはそれなりにかかりましたが、とてもいい感じの反射が得られています。いい意味で硬い音というか、硬すぎない音というか……。しっかりとした響きがあって、音がブレないんです」
御茶ノ水 Rittor Base:内観
 

GENELEC S360Aと7380Aが選ばれた経緯とは?

2018年の11月に施工が完了したRittor Baseが稼働し始めたのは、2019年の3月から。その間は主な機材について、何を導入するか、じっくりと検討する時間に充てていたという。
「こうした施設を立ち上げる場合、通常は何を入れるのかを最初に決めてから、ワイヤリングも含めて業者さんにお任せして仕上げていくのが普通らしいのですが、ここの場合は全く逆で、まず部屋を造り、何を入れるかはそれから考えることにしました。いろんな機材をお借りして聴き比べを行ない、機材の一つひとつを吟味して決めていきましたその都度ワイヤリングも自分たちで行なっていたので、なかなか大変でしたね」
御茶ノ水Rittor Base:S360APそして、注目の音響設備にはメイン・スピーカーにGENELEC S360Aとサブ・ウーファーの7380Aが導入されている。S360Aは、カテゴリーとしてはスタジオ・モニターに分けられるモデルだが、ライヴ・イベントも催されるこの場所でこの種のスピーカーを選んだのはなぜだろう。
「先ほどこの場所を多目的スペースとご紹介しましたが、本当にいろんな用途で使っていて、空いている時間には当社が発行している雑誌の機材撮影にも使用しています。そういうときにも映り込まないようにするなど、スピーカーは必要に応じて動かせるようにしておきたかったのです」
そして、最終的にS360Aを選定した理由について國崎氏はこう語る。
「S360Aが出るという情報を目にしたときから、注目していたんです。多チャンネルなイマーシヴ時代のポス・プロ用スピーカーとして、コンパクトでありながら、いままでのGENELECのラージ・スピーカー並みの音圧が出せるという記述を読んで、“ひょっとしたらぴったりなのでは?”と直感したんです。そこで試聴してみたら、思った通りの音でした。とにかく十分な音圧は欠かせなかったのですが、S360AはかなりのSPLが得られて、しかもPA的ではなくスタジオ寄りのサウンドだったというのが主な選定理由です」
数十人とは言え、それなりの人数に向けて鳴らすためには、並のスタジオ・モニターでは厳しいところだろうが、パワフルなデジタル・アンプを内蔵したS360Aであれば、その正確なサウンドを会場全体で共有できるだろう。
「私自身、長らく雑誌でパワード・モニターを推してきたこともあります(笑)。パワードのいいところは、1台1台がアンプとのマッチングがよくとれているところでしょう」
S360Aの音は、ここを訪れるエンジニア諸氏からも評価が高いという。
御茶ノ水RittorBase:7380APMなお、サブ・ウーファー7380Aの導入については、「PAスピーカーと比べてスタジオ・モニターに足りないのが低域ですが、7380Aを導入することで十分すぎるくらいの低域が得られています」と話してくれた。國崎氏はそもそも、GENELECスピーカーにはどんな印象を持っていたのだろう。
「私が最初にGENELECを聴いたのは、『サウンド&レコーディング・マガジン』の取材で訪れた、ある音楽制作現場で使われていたS30でした。そのときの驚きはいまでも忘れられません。解像度、情報量の多さ、高域の伸び、どれをとっても最高で、これこそプロの音だと衝撃を受けました。以降も、GENELECはいいスピーカーをたくさん出していて、いろんなスタジオでも耳にしてきましたが、個人的にも好きな音という印象がありますね」
 

「GLM (Genelec Loudspeaker Manager)」の使い勝手

そして、Rittor Baseを自らの手で組み上げてきた國崎氏が特に評価していたのが、室内音響の特性を理想的なものに補正する「GLM 3」だ。その効果や使い勝手について伺うと……。
「実際の音を測定してチューニングできるGLM 3の優秀さにはシビれましたね(笑)。補正前後の音の違いには本当にびっくりしました。それなりに音を整えた部屋であっても、ある程度の山・谷があるのは当然で、補正前にはあるところでピークが感じられましたが、それがピタッと消えてフラットな特性に変わったんです。また、サブ・ウーファーの設置場所も紆余曲折してこの場所に落ち着いたのですが、ご覧のとおりメイン・スピーカーとの距離がそろっていません。でも、サブ・ウーファーを含めて位相調整もしてくれるので非常に便利です。しかも、それがとても簡単に行なえるのはありがたいですね」
従来のチューニングと言えば、音響補正用の機材を物理的に足したり、あるいはグラフィック・イコライザーで特性を調整したり、お金と時間をかけて行なっていたものだが、それが「測定一発、1〜2分程度で完了」するというのだから、こうしたDSP技術の進歩には目を見張るものがある。当施設ではすでに、可動式の観客席の有無で2種類のプリセットを用意しているということだが、GLM 3のようなソリューションは運用するうえでも強力なツールとなっているようだ。
御茶ノ水RittorBase:内観
 

他の施設との差別化にも優位なマルチ・チャンネル対応

部屋の周りを見渡すと、スピーカーはメインのS360Aのほか、天井や床に小型のスピーカーが複数設置されているのに気付く。そう、ここRittor Baseはマルチ・チャンネルにも対応しているのだ。
「サラウンド用にCODA AUDIOのD5-Cubeというフルレンジ・スピーカーを8台導入して、さまざまなスピーカー・レンダリングをしています。ハイト・スピーカーも設置し、Dolby AtmosやAuro-3D、DTS:X、22.2chといったイマーシヴ・フォーマットもオリジナルのパッチを組むことで対応しています。いまどき5.1chは当たり前ですから、開設当初から立体的なイマーシヴ・サウンドに対応することを目指していました。お陰様で、そうしたサラウンド関連の催しのお話もよくいただいています」
最近は映画だけでなく、音楽作品でもマルチ・チャンネル化したものも増えているが、そうしたサウンドを映画館ではなく、このようなイベント・スペースで多くの聴衆と共有できるというのは珍しい。
「実際にやってみると、立体音響に対応したライヴ・スペースを探していた方が多かったことに気付きました。“こういう場所を探していました”という言葉はよくいただいています」
 

こだわりのデジタル・コンソールと伝送システム

Rittor Baseでは現在、伝送システムにはDanteを使用している。これを選んだ理由を尋ねると、コストを意識しながらも、クオリティにはこだわりたいという國崎氏の姿勢が浮かび上がってくる。
「コンソールはALLEN & HEATHのSQ-5なのですが、これを選んだのは、予算内のデジタル卓の中から96kHzで動くモデルを探した結果です。48kHzでもよければ選択肢は広がったのですが、これまでハイレゾを推奨してきた手前、このスペックにはこだわりたかったのです。SQ-5はプリ・アンプの音も良く、大変満足しています。そして、このデジタル・ミキサーがサポートしていることもあり、サラウンドを含めたネットワークをDanteで組むことになりました」
その伝送システムについて、國崎氏はさらにこう付け加える。
御茶ノ水RittorBase:Digiface Dante「ただ、この先はMADIに対応する機材の導入も考えられますので、RMEのDigiface Danteを用意してこれに備えています。Digiface Danteがあれば、DanteとMADIを混在してネットワークが組めますからね。また、サラウンドを構成するためのプロセッシングを行なうWindowsのノートPCにUSB3.0で接続しているDigiface Danteは、Windowsだと録音機能(Global Record)が使えるので、先日行なったサラウンドのイベントでは音声をすべて録音することができました。これはなかなか便利な機能ですね」
 

本格的な映像設備もワンオペで対応

冒頭でも触れたように、Rittor Baseは音響機材だけでなく、映像設備も充実している。
「当初はここまでちゃんとしたものを入れようとは考えていなかったんですよ。でも、SONYの超単焦点プロジェクターも、この画質を観てしまうとどうしても導入したくて(笑)。また、同じ頃に出来上がった音響スペース「Artware hub」を見学させていただいたときに気になったのがリモート・カメラでした。映像設備として、当初は普通のカムコーダーを2〜3台購入するつもりだったのですが、そこで見たリモート・カメラがあまりに素晴らしくて。“これがあれば映像もワンマン・オペレーションで扱えるのでは”と思い、カメラ2台とスイッチャーを導入しました」
では、気になるイベント開催時のオペレーションはどのように行なっているのだろう。
「ここではオペレーターに常駐してもらっているわけではありません。卓のマニュアルも通勤中に隅から隅まで自分で読み込んで、なんとか使いこなせるようになりました。スイッチャーとリモート・コントローラーをコンソールの隣に置いて、いまでは完全に私1人で映像と音を制御できています」
 
 

音楽やミュージシャンの素晴らしさを届けたい

御茶ノ水RittorBase:國崎氏今後、Rittor Baseがどんなスペースとして展開していくのか。國崎氏は少し先の未来について、このように語ってくれた。
「私自身、当初は想定していなかった使い方−−−例えばレコーディングも最初はそんなにやるつもりはなかったのですが、イベントに出演してくれたバンドから“この部屋が気に入ったので、録音に使わせてください”という要望があり、実際に録音も行ないましたし、映画の試写会も予定していたわけではありませんが、お陰様で好評です。用途を絞ることなく、何にでも対応できるようにと考えていたのが、いい形で転がり始めていますので、これからも予期しないことをいろいろできるといいなと思っています。そして、いいカメラも導入しましたので(笑)、生中継を含めた動画配信も、もっと増やしていきたいですね。ただ、ワンマン・オペレーションは大変なので、さすがに毎日というわけにはいきませんけれど(笑)」
最後に、雑誌作りからイベント運営へ、形を変えても読者やオーディエンスに伝えたいことは何かと尋ねると、このような答が返ってきた。
「それはずっと変わらなくて、“これは”と思う音楽の良さ、プレイヤーの素晴らしさを1人でも多くの人に知ってもらいたいということに尽きます。雑誌やイベントなどメディアを変えながら、そんなことをやっているわけですね。だからこそ、基本的にここはハコ貸しをしません。こちらが主催、もしくは共催という形にこだわってイベントのクオリティを担保して、リットーミュージックとしてお勧めできるものをどんどん発信していきたいと思っています」


導入機材

GENELEC S360A

GENELEC S360A

音声の解像度や音質を損なわずにハイSPL出力を提供するスタジオ・モニター

GENELEC 7380A

GENELEC 7380A

SAMファミリーの低域をさらに強化するGenelecのフラッグシップ・スタジオ・サブウーファー

RME Digiface Dante

RME Digiface Dante

256チャンネル 192 kHz Dante – MADI対応USB オーディオインターフェイス / コンバーター

 


 

御茶ノ水RittorBase御茶ノ水Rittor Base

リットーミュージックが楽器の街・御茶ノ水に開設した多目的スペースです。楽器の音が理想的に響く環境を整え、機材も最高のものを用意しました。

公式サイト

東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパス

イマーシブ・オーディオ/MADIがキーワードの最新鋭スタジオ

昨年創立111周年を迎え、その記念プロジェクトであった中目黒・代官山キャンパスを今年4月に開校した 東京音楽大学 。その注目事項として、イマーシブ・オーディオ環境とMADI接続のレコーディング・システムを整えたスタジオの設立が挙げられる。さらに、学生指導用としてPRESONUS Studio Oneなどのソフトウェアも導入されたという。ここでは関係者に話を伺い、その実像に迫っていこう。

 
出典:東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパス by サウンド&レコーディング・マガジン編集部 2019年11月19日
撮影:八島崇

東京音楽大学

サウンド&レコーディング・マガジン 特別記事

東京音楽大学 中目黒・代官山キャンパス 〜イマーシブ環境を実現したスタジオと充実のソフトウェア〜

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東京音楽大学 : 主な導入機材

Genelec 8341A

8351B SAM™ スタジオ・モニター

3ウェイ・ポイントソース・デザインの革命である8351は、ユニークなデザイン、コンパクトなサイズ、そしてパフォーマンスに優れたジェネレック集大成の同軸モニター

Genelec 1234A

1234A SAM™ スタジオ・モニター

最高レベルの期待を上回るべく設計された1234A SAM™ スタジオ・モニターは、プロフェッショナルが求める全ての機能セットを備えた信頼できる選択肢です。

Genelec 1238AC

1238AC SAM™ スタジオ・モニター

数十年に渡るエンジニアリングにおける実績と、あらゆるSAM™ツールにより形作られた1238ACは、価値あるセンター・チャンネルです。

Genelec 1238DF

1238DF SAM™ スタジオ・モニター

外部サブウーファーとの併用向けにデザインされた1238DFは、RAM Lリモート・アンプ・モジュールで、コンパクトな筐体でありながらビッグなパフォーマンスを提供します。

RME MADIface XT

MADIface XT

MADI 3系統搭載 196イン/198アウト 192kHz USB 3.0 オーディオ・インターフェイス

RME Micstasy

Micstasy

8チャンネル 192kHzフルレンジプリアンプ・ADコンバーター

 

授業で活用されるソフトウェア

MakeMusic Finale

Finale

楽譜作成ソフトウェア

PreSonus StudioOne

Studio One

DAWソフトウェア

Cycling '74 Max

Max

オブジェクト・プログラミング・ソフトウェア

教育機関向けマルチライセンスの詳細