”世界基準の音楽制作集団”『Mili(ミリー)』Yamato Kasai氏 軽井沢プライベートスタジオ
「攻殻機動隊」「ゴブリンスレイヤー」「Limbus Company」「Library Of Ruina」「ENDER LILLIES」「魔法使いの約束」等、人気アニメやゲーム作品に楽曲を提供している日本のバンド・音楽グループ 『Mili(ミリー)』
クラシック、エレクトニクス、ロック、ジャズ…数多くのジャンルの音楽を自在に操り、『世界基準の音楽制作集団』として、国内だけに留まらず、韓国、中国、カナダ、ポーランドのアニメ、ゲーム、IT企業へ、数多くの楽曲を提供。また、Miliは、音楽だけではなく、ビジュアルやグッズの制作、マネージメントさらには経営までを全て自らの手で行い、アーティスト自身が主導権を持ちながらの活動を展開している点でも唯一無二な存在。その人気は海外でも非常に高く、過去にポーランド、アメリカ、中国でライブツアーを行なっており、国内では、サマソニにも複数回出演しています。
そのMiliの中心人物として、クラシカルなサウンドを土台に、幅広い作曲を手掛けるコンポーザーYamato Kasai 氏のスタジオ。 アナログシンセサイザーやギターアンプに囲まれた軽井沢の美しい森の中のプライベートスタジオに、GenelecのThe OnesスピーカーとVicousticの調音パネルが導入されていると聞き、早速お話を伺ってきました。
——— 音楽をはじめたきっかけを教えてください。
Yamato Kasai : 物心ついた頃には、親も含め周りの人間が音楽をやっていたので、そこから独学でピアノとかギターとかを始めてました。一番のきっかけは、小学校の時に鼓笛隊でトランペットを吹いていたんですけど、それが楽しくて。そこでちゃんと音楽をやったら面白いかもと考えるようになりました。
あと、ゲームが大好きだったんで、ゲームを作る仕事に何かぼんやり関わりたいなって思うところから、ゲーム音楽作る人になりたいなって思って。それで、中学生の時にバイオリンを始めて、オーケストラのジュニアの団体に所属しながら、同時にバンドも始めたんです。
もう、なんか気が付いたら、ずっと音楽、という感じで……。もう切っても切り離せない状態でした。
そんな中で、そのオーケストラのジュニアの団体に所属していた時に、名フィル(名古屋フィルハーモニー交響楽団)の先生が教えてくださっていて、そこで初めてちゃんと音楽を習いました。
——— 名フィルということは、ご出身は名古屋ですか?
Yamato Kasai : はい。岡崎というところなのですが、その時にバンドを始めて、そのバンドはインディーズデビューはしたんですけれども、あまり芳しくなく……。そこで、何か自分一人で作ってみたらどうなんだろうって思って、最初、初音ミクとか、いわゆるボーカロイドとかが流行る前、あの時代に、一人でネットに曲を上げ始めたんですよね。18か19歳ぐらいの時だったとおもいます。自分でDAWを使って、ネット上に曲をアップし始めたら、今度は、ニコニコ動画で初音ミクが出てきて、何だこれは?って。この初音ミクというキャラクターを使うと、こんなに人が聴いてくれるのか!と驚きました。ちょうどこれから何か面白くなりそうなシーンだったので、だったら僕もやっていこうということで、ボカロPとしての活動もしました。だけど、実際にやってみると、どういうわけか国内ではあまり評価がされない。けど代わりに、なぜか外国人が評価してくれたんです。
実は、その時期、つまり「Mili」の結成前の時期になるのですが、僕は国内で二つの名義を使い分けて活動していました。ひとつは、ポップス路線での活動。そしてもうひとつは、僕が好きな音楽、ちょっとマニアックな音楽の路線での活動でした。ポップス路線での名義の方は、自分の中でニコニコ動画の何位以内に入ったら、そこをゴールにしようと決めていたんですよね。ずっと作り続けるのは苦しくなってしまうので……。そして、その通りゴールに到達したので、じゃあもう好きなことをやろうということになりました。
ボカロP時代に、2つの名義を並行して活動していて感じたのが、結局、どちらかだけじゃ駄目なんだってことなんですよね。ポップス路線だけでも駄目だし、やりたいことだけやっててもダメなんだなっていうのを感じました。そこで、じゃあこの両名義でやってたことを混ぜてみようっていうのが、Miliの土台になりました。
——— なるほど。ということは、Miliを結成したのは日本だったのですね。
Yamato Kasai : そうですね。もう12年ぐらい前になります。ボーカルのキャシーは当時まだカナダに住んでいたんですよね。本当にメールだけのやり取りで、喋り声も聞いたことないという状態のなか、こういう音楽やってるから一緒にやってみないか?っていうところから始めた感じです。当初はまだYouTubeとかも、全然流行っていない時代でした。そんな中、僕らも、YouTubeで音楽をやっていこうって始めたので、最初は全然再生されなかったんですけどね。
——— 最初の頃から海外での仕事が多かったりしていたのでしょうか?
Yamato Kasai : まず、一番最初に掴んだお仕事は、台湾でした。
台湾のリズムゲームで『Cytus』とか『DEEMO』というゲームを作っているRayarkという会社があるんですけど、そこに自らコンタクトをして、タダでもいいから、もし気に入ってくれたら使ってくれとメールをしたんです。そのRayarkという会社も、当時は、まだ大きく評価される前だったんですが、僕はRayarkのゲームが好きで高く評価していたので、何かのタイミングで跳ねるんじゃないかなと感じていたんですよね。
大きな会社さんと仕事をしようと思うと、まず自分自身に知名度が必要じゃないですか。どうしても数字や実績というものが必要ですよね。なので、当時まだ数字や実績を持ってない僕が、その会社に対してどのように貢献することができるかって考えた時に、やっぱりスタートアップ的な会社、これから伸びる会社に賭けるしかないって思って、Rayarkさんにお声がけをしたら、今ですらすごく大きな会社の社長になっちゃったんですけど、社長から直々に返事が返ってきて「すごく気に入ったから是非使いたい!」と。
そこから色々お仕事をさせていただくようになって、『DEEMO』というタイトルが発売されました。DEEMOには、Miliの名義で参加したのですが、これはチャンスだと思いました。
リズムゲーム、音楽ゲームって色々な会社さんが作られててますけど、何十、何百という楽曲が入ってるわけです。なので埋もれる曲、人気がない曲とかも、いっぱいある訳です。そこで、まずこの最初のローンチのタイミング、発売した瞬間のタイミングで「一番人気の曲を作ろう!」 と考えました。
そして、実際にそういう曲を提供することができて、結果を残すことができた……それが一番大きな転機でしたね。
Genelec 8331Aについて
——— Genelecの8331を導入されたのは、この軽井沢のスタジオになってからですか?
Yamato Kasai : いや、その前の東京のスタジオの時からですね。単純に、すごく音を気に入ってます。
元々、Genelecの8330を使っていたのですが、同軸のタイプはどうなんだろうって思って、お店で試聴したらすぐに「あ、これ欲しい!」となりました。
下手にモニタリング環境を大きく変えたくなかったものですから、なるべく同じメーカーで、とは思っていましたが。それこそ、GLMを気に入っていたので、というのが最大の理由ですね。
やっぱり自分で測って、その計測データを見た時に、どこが出ていて、どこが出ていないというのが、何となく自分の耳で把握するのではなくて、ちゃんと数字で知っておきたいわけです。
もちろん、それが全てではないんですけれども、自分の部屋でどのようにスピーカーがパフォーマンスをしているのかということを理解して、それを大前提として音作りをしていくっていうのはやっぱり大切だと思うんですよね。
そういう意味でもGLMでの補正を行うことのできるGenelec、しかもこの同軸の8331は気に入っていますね。
——— 8331Aの音質はいかがでしょうか?
Yamato Kasai : 特にディエッサーを掛けるような部分の音、5k-8kHz位の音ですかね、その辺りの音がすごく聴きやすいです。それから、ローエンド、特にこの8331ですと、45Hzくらいまでしっかり感じられるぐらい出るので大変助かっています。
今は、軽井沢に引っ越して部屋も大きくなりましたので、もう少し大きなモデルの方が良いかもと思っているところではありますね。
あと、単純にカッコいいですよね(笑)。この見た目、テンション上がるんですよ。
8330を使っていたときは、グレーのモデルだったんですけども、ブラックのバリエーションが出ているのを見た時、音も含めて「ひと目惚れ」でした。
かっこいいな感じるかどうかというのは、大事だと思うんですよ。楽器でもそれって大事ですよね。
自分のテンションを上げるためにも所有しておきたい感じですよね。
ルームアコースティック
——— モニタリング環境や、ルームアコースティックに関してお話しを聞かせてください。
Yamato Kasai : モニタリング環境に関しては、ずっと悩んできましたね。なかでもやっぱり天井高ですね。
日本の住宅環境ですと、天井高は大体 2.3mぐらいですよね。そうなると、座った時に、床と天井、つまり上下からの反射の真ん中に頭があるっていう状態になります。この一番良くない状況というものから、どうにか抜け出したかったんです。
それから、僕が元々オケ出身っていうのもあるかと思うんですが、自然の響きの大事さっていうのが分かっていて、完全なデッドな状態にはしたくなかった。普通のレコーディングスタジオみたいな、完全にデッドな環境は別に必要としてないので、何かそういう、自分好みの調音ができる部屋を作りたかったんですよね。
ということで、ここ(軽井沢の現スタジオ)では、とりあえず天井の高さだけは確保しておけば、吸音等は、様子を見ながら買い足していったり、必要に応じて抜き差ししたりで、後からでも十分調音はできるようにと計画をして部屋を作りました。
——— 今回はお宅を新築されてるわけですので、最初から吸音の処理を工務店に頼むこともできたのかと思いますが、それはわざとやらなかったのですね?
Yamato Kasai : そうですね。工務店の方から「調音はどうされますか?」 と聞かれたんですが、調音は自分でやった方が、多分使い勝手が良くなるだろうなと思ったんですね。
まだ部屋が完成していないのに、すべて作り込んでしまうと、多分、そこから不自由が生まれた時に、柔軟に対応できないなって思って……。なので、とりあえず防音だけはしっかりやって欲しいとお願いしました。
——— なるほど。調音は後から自分でやろうという計画だったのですね。そして、調音には、Vicousticを選んだ訳ですが、これは何かきっかけがあったのでしょうか?
Yamato Kasai : そうですね。いままでのスタジオでも、さまざまなメーカーの調音パネルを使ってきたのですが、前にコワーキングスペースみたいなところのテレフォンブースで、Vicousticを使っていらっしゃるところがあって、自分の声で試してみて「あ、これいいな」って思ったのがきっかけですね。デザイン的にも素晴らしいですしね。
まず、吸音パネルとして、Wavewood Ultra Liteを、前壁に3枚、横の壁に各6枚づつ、計17枚導入しています。
そしてベーストラップとして、Super Bass Extreme Ultraが前壁のコーナーに3台づつ、計6台。さらに背面の壁には、拡散パネルのMultifuser DC3が6枚取り付けられています。
——— Vicousticの導入前と導入後では、音の違いはありましたか?
Yamato Kasai : 段違いに良くなっていますね。(笑)
一度、何も処置がされていない状態の部屋で作業をしたのですが、すぐに「これはもう無理だ」となりました。
部屋自体も大きいので、音の輪郭が捉えられなくて。これじゃ曲を作るのすら難しいぞ、みたいな感じでしたね。
——— Wavewood Ultra Liteを選んだ理由は?
Yamato Kasai : 基本的には、まずビジュアル面が良いもので、かつ性能が高いものにしたかった、というのがありました。そして、どこまで吸音するかって考えた時に、完璧に吸音をするよりは、少し反射/拡散した方が良いということを聞いたことがあったので、吸音パネルにはWavewood Ultra Liteを選びました。
パネルの配置に関しては、基本的には、部屋のこっち側で制作するので、まずは、スピーカーからリスニング・ポジションまでの音が整えば良いと考えて、リスニング・ポジションを取り囲むように配置をしています。
特に、スピーカーの横の壁からの一次反射をWavewood Ultra Liteで抑えたのは、本当に効果がありました。今回のように、まずは、耳の高さ、耳とスピーカーを取り巻く環境を変えるだけでも、ずいぶん良くなることがわかりました。
あとは、このスタジオ、何も調音をしていない状態では、低域が本当に膨らんで膨らんでしまっていて……今回は、それも解消させたかったので、ベーストラップ、Super Bass Extreme Ultraも導入しました。Super Bass Extreme Ultraは効果ありましたね! 特に、GLMでの計測時の波形にも現れていたと思いますが、50Hzあたりに出ていたピークが、かなり軽減されました。
——— ここからさらに調整したいとお考えの部分はありますでしょうか?
Yamato Kasai : そうですね。このデスクの下ですかね。そこに結構音が溜まってる感じがするので、その辺りを改善してゆきたいですね。
——— 今回Vicousticを選ぶ際に、GenelecのGLM機能のひとつであるGRADEレポートを使い、レポートに記載されているルームアコースティックの計測結果をベースに、弊社の方でも少しだけご提案をさせていただきましたが、それに関してはどのように感じられましたか?
Yamato Kasai : とても良いやり方だと思いました。
GLMのGRADEレポートを見れば、自分の部屋の状況が、数値として確認できるので、少しだけルームアコースティックの理論を勉強すれば、誰でも簡単に調音パネルの選定ができるようになりますよね。
——— Vicousticには、独自のサービスとして、お客様のお部屋の情報を教えていただくと、どこにどのパネルを何枚貼るのが良いのかというレポートを送ってくるサービスもあります。有料にはなりますが、それもおすすめです。
Yamato Kasai : そうなんですね! 実際に部屋の図面とか写真を送って、プロのコンサルを受けながら、DIYでパネルの取り付けができるというのは非常に魅力的ですね。 例えば、これから音楽をがんばりたいけど、音響工事とか専門的な業者さんに全部任せるほどの予算はないっていう人には、Vicousticは特におすすめかもしれませんね。
導入機材
Vicoustic VicStudio Box
Vicousticの主力製品を1パッケージ。Wavewood Ultra Liteが8枚、Multifuser DC3が2枚、パネルを接着するためのFlexi Glue Ultra2本のバンドルセット。
Vicoustic Super Bass Extreme Ultra
低周波が問題となっている小さめの室内にお勧めのベーストラップ。60〜125 Hzの低域周波数を効果的に吸収するよう設計されています。