イマーシブ録音の最先ノウハウと実践:Mick 沢口氏

日本が世界に誇るハイレゾ・イマーシブ・レーベル「UNAMAS」代表の Mick沢口氏による、貴重なイマーシブ解説。氏が5年をかけて軽井沢で行なってきた「クラシックシリーズ」でのイマーシブ録音、そのハイトマイクの配置方法を実際の作品を聞きながら徹底解説した貴重な講演。マイキングだけではなく、録音機材や録音技法まで、実践的なレクチャーが行われた


MI7グループ主催のセミナーイベント「Media Innovation Workshop vol.2」

「最先端の音響で、全てのビジネスを一歩先へ。」

第2回目となる2019年5月、イマーシブ・オーディオ(立体音響・没入型サラウンド)に関するワークショップが国内3箇所で開催された。


 
現在、音楽だけなく様々な業界でニーズが高まっている「イマーシブ・オーディオ」。今回は、イマーシブの現場の最前線で世界的に活躍される3名が登壇された。
ORFオーストリア放送協会のフローリアン・カメラー氏、”サラウンド将軍” Mick沢口氏、そして、日本初のAmbisonicsアルバム制作者 江夏正晃氏。各講師より、イマーシブに関連する基礎知識や録音/再生技術、また制作した作品の紹介や、より実践的なノウハウについてお話し頂いた。
 

ワークショップ詳細

 


講師

Mick沢口氏
Mick沢口
沢口音楽工房 UNAMAS- Label 代表
Fellow member AES and ips
 
1971年千葉工業大学 電子工学科卒、同年 NHK入局。ドラマミキサーとして「芸術祭大賞」「放送文化基金賞」「IBC ノンブルドール賞」「バチカン希望賞」など受賞作を担当。1985年以降はサラウンド制作に取り組み海外からは「サラウンド将軍」と敬愛されている。2007年より高品質音楽制作のためのレーベル「UNAMAS レーベル」を立ち上げ、さらにサラウンド音楽ソフトを広めるべく「UNAMAS-HUG / J」を 2011年にスタートし 24bit/96kHz、24bit/192kHz での高品質音楽配信による制作および CD制作サービスを行う。2013年の第20回日本プロ音楽録音賞で初部門設置となったノンパッケージ部門 2CHで深町純『黎明』(UNAHQ-2003)が優秀賞を受賞。2015年には第22回日本プロ音楽録音賞・ハイレゾリューション部門マルチchサラウンドで『The Art of Fugue(フーガの技法)』が優秀賞を、続く第23回では、ハイレゾリューション部門マルチchサラウンドで『Death and the Maiden』が優秀賞を受賞。さらに第24回日本プロ音楽録音賞の前同部門において最優秀賞を受賞、第25回日本プロ音楽録音賞・ハイレゾリュージョン部門「クラシック、ジャズ、フュージョン」において最優秀賞・スタジオ賞を受賞。日本プロ音楽録音賞4年連続受賞の快挙を成し遂げる……ハイレゾ時代のソフト制作が如何にあるべきかを体現し、シーンを牽引しつづけている。
https://unamas-label-jp.net/
 


 

最初に

実際のレクチャーの中では、全ての音源がイマーシブセットアップされたGenelec スピーカーを通じてハイレゾ再生されていましたが、このレポート記事の中では全ての人がレクチャーの追体験をできるように、音源の販売サイト(試聴オプションあり)のリンクを記載しました。(ヘッドフォンでの試聴を行う方はHPLの方をお選びください)
【試聴音源 記載例】
Death and the Maiden
Franz Schubert / No-14 in D minor Death and the Maiden
UNAMAS Strings Quintet(2016/4/22)
試聴音源:HPL 9版の購入はこちら
試聴音源:2chステレオ・5.1サラウンド版の購入はこちら
録音会場の詳細レポートはこちら
 
 
 


ワークショップ概要

最初のセクションでは、没入感サラウンド(イマーシブサラウンド)では、どのような空間表現が可能なのか、3つの異なるアプローチに対して、それぞれの成功の鍵がTIPSとして紹介された。
 
【Type-01】  自然な3D空間再現

  • 具体的な作品例:クラシック音楽の録音、ライブコンサート、スポーツ放送
  • 成功の鍵:マイキング(効果的なマイキングが必要)

【Type-02】創造型3D空間構築

  • 具体的な作品例:コンピューター音楽、メディア・アート、イベント音響
  • 成功の鍵:サウンド・デザイン(事前に設計図を描くことが必要)

【Type-03】自然音空間再現

  • 具体的な作品例:サウンドスケープ、フィールドレコーディング
  • 成功の鍵:忍耐と幸運(良い音が取れるまで粘ることが必要!)

 
続いて次のセクションでは、それぞれのイマーシブ・オーディオの「タイプ」に対しての詳細な説明があった。
 

 


 

【Type-01】自然な3D表現

イマーシブ・オーディオの表現手法のひとつは「自然な3D表現」であり、UNAMASは、7.1.4ch(=11.1ch)にフォーカスを当て制作を展開しているが、Hight 4chのマイキングは固定ではなく、その作品をどのような音にしたいかによって都度変化するとの事。そして、この後、実際に各作品ごとにどのようにHightマイクを配置しているかが詳しく解説された。
UNAMASのイマーシブ・アプローチは、7.1chメインマイク+音楽表現別に最適化した4chのトータル12chで構成され、サンプルレート192kHz のPCMで制作が行われる。奏者がリスナーを取り囲むように円周に配置された「Subjective Surround (主観的サラウンド)」を特徴としており、そのため奇数のアンサンブル編成を基本として録音されている。またミックス作業時にプラグインは使わず、すべて録音段階でバランスを作り上げてゆくのだそうだ。
7.1chのメイン・マイキングは以下の通りである。Neumann KM133Dが5本と、Sanken CO-100Kを2本、そしてBrauner Phantom Classicという構成だ。
7.1.4ch main
 
そして、毎回ポジションが変化する4chのHightマイクの解りやすい例として以下の2種類のパターンが提示された。
初期反射音を捉えるために上向きにマイクを配置した例と、マイクを2階席に設置しホールの響きを豊かに捉える例である。
フローリアン・カメラー氏のアプローチとは異なるが、理論ではなく音楽的感覚を重視する沢口氏らしいアプローチと言える。
4ch hight
 
なお、マイクポジションとは話が異なるが、録音時の機材の接続は以下の通り。ステージ上のマイクをRME Micstasyに集め、MADIケーブル1本で、コントロールームのRME MADI Routerへ伝送。それぞれのI/Oに分配して、Pyramix、SEQUOIAなど複数のレコーダーへと録音をする。極めてシンプルな構成だ。
Recording Setup
 
そして、「ホールの豊かな響を捉えた例」として、《ViVa The Four Seasons》の収録で実際に使われたマイキングが紹介された。メインマイクは「スパイダー・ツリー」と呼ばれる、奏者を上から狙うセッティングで固定。ハイトマイクは、(1)ステージからSony C100を客席に向かって立てる (2)バルコニー席からSanken CUW-180でステージを狙う の2種類を展開した。
 
FourSeasons
 
ViVa The Four Seasons(A.Vivaldi Concerto NO-1_NO-04)
UNAMAS Strings Sextet(2019/6/30)
試聴音源:HPL 9版はこちら
試聴音源:2chステレオ・5.1サラウンド版はこちら
 
会場では、実際の楽曲を11.1chで試聴。疾走感のある猛々しい演奏、そして素晴らしい空気感の再現に、録音時のホールの緊張感までもが会場にも伝播したような感覚だった。
ViVa The Four Seasons
ViVa The Four Seasons


 
次に「天井初期反射音を捉えた例」として、UNAMASクラッシックシリーズ、初期の名盤:The ART of FUGUEのマイキングが紹介された。
 
J.S.Bach / The ART ofFUGUE BWV-1080
UNAMAS FUGUE QUINTET(2015/06/04)
試聴音源:HPL 9版はこちら
試聴音源:2chステレオ・5.1サラウンド版はこちら
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フーガは、単独楽器の音がメインなので、ホールで響く豊かなアンサンブル音を捉えるよりは、初期反射を捉えて音楽を補強するということで、ハイトチャンネル用のマイクは、天井の反射板からの初期反射を狙うべく、ステージ上に上向きにて設置しているのが特徴的だ。
The Art of Fugue
The Art of Fugue


 
次の例として紹介されたのは、シューベルト第14作目にして晩年の名曲と言われる「死と乙女 :Death and the Maiden」の録音。この作品は、ダイナミックで勢いがあるアンサンブルということで、ステージのエッジに客席の方向にむけて設置したハイトマイクにて、アンサンブルの残響が客席方向へ飛んでいく様子が見事に収録されている。
 
Death and the Maiden
Franz Schubert / No-14 in D minor Death and the Maiden
UNAMAS Strings Quintet(2016/4/22)
試聴音源:HPL 9版の購入はこちら
試聴音源:2chステレオ・5.1サラウンド版の購入はこちら
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Death and Maiden
Death and Maiden
 


年代順に紹介されてゆくアルバムたち。つぎの作品は、2017年に録音された、ピョートル・チャイコフスキー最後の室内楽曲。弦楽六重奏曲《フィレンツェの思い出》(Souvenir de Florence)OP-70である。
 
Florence
P.I.Tschaikovsky / op-70 Souvenir de Florence
Unamas Strings Septet(2017/06/23)
試聴音源:HPL 9版の購入はこちら
試聴音源:2chステレオ・5.1サラウンド版の購入はこちら
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この作品は、編成も大きいため、十分な響きがホールに拡散するはずということで、この作品から初めてステージ上部の合唱バルコニー席にハイト・マイクを設置。メインマイクとハイト・マイクとの距離はおおよそ12mである。
Souvenir de Florence
2F balcony
 


 
そして、最後に紹介されたアルバム「Touch of Contra Bass」では、ヴァイオリン2・チェロ1・コントラバス1という非常に重厚な編成のホール客席側の響きを多く捉えることを目的として、ハイト・マイクは、2F客席中央部へと設置された。
ステージからは約20mもの距離となっている。
 
UNAHQ 2014 Touch of ContraBass
Touch of Contra Bass
UNAMAS Strings Septet(2018/08/25)
試聴音源:HPL 9版の購入はこちら
試聴音源:2chステレオ・5.1サラウンド版の購入はこちら
録音会場の詳細レポートはこちら
 
Touch of Contra Bass
2F Center
 
以上、氏が5~6年をかけて軽井沢の大賀ホールで収録した「Classic シリーズ」をハイト・マイクの違いという切り口で音源を紹介し、【Type-01】 自然な3D空間再現 というアプローチにおいて、いかにマイキング(マイクポジション)が重要なのかを解説。
 


 
 

【Type-02】創造型3D空間構築

Type-02は、マルチトラックの音源からイマーシブをデザインし構築する手法。「レコーディング」ではなく「クリエイト」の分野からのアプローチだ。既存曲ではなく新規作品のため、制作段階で最終的な空間を見据えた音づくりを行ってゆく。後の”Session 3”で紹介する江夏氏の作品はAmbisonicsを前提に作曲されており、まさにこのアプローチからの作品である。

江夏氏のAmbisonicsアルバム制作レポートを読む

Type-02
 


 

【Type-03】自然音による空間再現

フィールド・レコーディングにおいては、ずばり「忍耐力と幸運」が大切!ということで、最後に、沢口氏が録音した環境音を主体としたUNAMASレーベルの作品「The Sound of TAMA~Surround Scape~」より《The Summer of TAMA》を、2ch / 5ch / 9chで比較試聴して締めくくりとなった。東京・西多摩で収録された激しい雷雨と、笛の音が融合した本作品。あまりにリアルな雷雨のサウンドと、シーンの印象を決定付けるノスタルジックな音楽で、チャンネル数に関係なく素晴らしい臨場感を感じることができ、会場全体が没入感に包まれた。
 
The Sound of TAMA
 
 
The Sound of TAMA~Surround Scape~
Mick Sawaguchi , Yuko Yabe , Misuzu Hasegawa , Yuki Kaneko
試聴音源:HPL 5版はこちら
試聴音源:2chステレオ・5.1サラウンド版はこちら
 
 
 
 
以下は、フィリピン南西部に位置するパラワン島と、長野県の分杭峠での沢口氏の収録風景。カメラー氏同様、各地でのフィールド・レコーディングの経験も豊かだ。
パラワン島
分杭峠
 


使用機材

Fireface UFX+

RME Fireface UFX+

94イン/94アウト 24bit/192kHz対応 ハイエンド USB & Thunderbolt オーディオ・インターフェイス&レコーダー

M-32 DA

RME M-32 DA

32ch ハイエンド MADI / ADAT > アナログコンバーター

Gelelec S360

Genelec S360

SAM™ マスター・スタジオ・モニター

Genelec 8351A

Genelec 8351A

4スピーカー/3ウェイ・ポイントソース・デザインSAM™スタジオ・モニター

Genelec 8331A

Genelec 8331A

ハイヘッドルームの4スピーカー/3ウェイ・ポイントソースSAM™スタジオ・モニター

Genelec 7370A

Genelec 7370A

12インチSAM™ スタジオ・サブウーファー

 

ハイレゾ Ambisonics 作品の制作秘話:江夏 正晃氏

世界初の高次 Ambisonics (アンビソニックス) アルバムをリリース予定の江夏正晃氏による講演。IEM Plug-in Suiteを使ったアルバムの制作やミックスについての解説やノウハウの伝授だけに留まらず、Ambisonicsの現状や、将来の可能性についてまで網羅した非常に貴重な講演。一般的な2chステレオとイマーシブの制作では、必要なテクニックや課題となるポイントは、似た部分もあれば全く異なる部分もある。音質、音圧、ダイナミクスなど、最良のイマーシブ作品にするためには何が重要なのか。クリエイターならではの着眼点で、より具体的な目線からイマーシブ・オーディオを解いてゆく。
 


MI7グループ主催のセミナーイベント「Media Innovation Workshop vol.2」

「最先端の音響で、全てのビジネスを一歩先へ。」

第2回目となる2019年5月、イマーシブ・オーディオ(立体音響・没入型サラウンド)に関するワークショップが国内3箇所で開催された。


 
現在、音楽だけなく様々な業界でニーズが高まっている「イマーシブ・オーディオ」。今回は、イマーシブの現場の最前線で世界的に活躍される3名が登壇された。
ORFオーストリア放送協会のフローリアン・カメラー氏、”サラウンド将軍” Mick沢口氏、そして、日本初のAmbisonicsアルバム制作者 江夏正晃氏。各講師より、イマーシブに関連する基礎知識や録音/再生技術、また制作した作品の紹介や、より実践的なノウハウについてお話し頂いた。
 

ワークショップ詳細

 


講師

江夏正晃氏江夏 正晃
株式会社マリモレコーズ 代表
marimoRECORDS Official site
 
音楽家、DJ、プロデューサー、エンジニア。エレクトロユニットFILTER KYODAIやXILICONのメンバーとして活動する一方、多くのアーティストのプロデュース、エンジニアなども手掛ける。また株式会社マリモレコーズの代表として、映画音楽、CM、TV番組のテーマ曲など、多方面の音楽制作も行う。ヘッドホンやシンセサイザーのプロデュースなども手掛け、関西学院大学の非常勤講師も勤める。著書に「DAWではじめる自宅マスタリング」(リットーミュージック)などがある。
 


 

はじめに

「今から1年前の時点では、皆さんよりもイマーシブについて詳しくなかったと思う」という言葉からセッションをスタートさせた江夏氏。昨年のInterBEE 2018の際にIEM Plug-inの開発者・ダニエル氏と出会い話をしたものの、知識が追いつかず内容が理解できなかったのだそうだ。その後、Mick沢口氏に「君の作品でイマーシブをやってみないか」と声を掛けられたことがきっかけで、今回の登壇に至ったのだと語る。
MIW2 - 江夏氏 High Resolution Ambisonics
 
サラウンド・多チャンネルについては、既に映画など多くの作品の制作を経験している江夏氏。ステレオ作品に比べて可能性は大きいものの、限界を感じていた。音のスピード感や音の中抜け、定位感が上手く行かないなど数々の苦労があるサラウンド作品。今回の挑戦では、それらに対するアプローチとして、「PIANO Pieces」というアルバム名の通りピアノ曲による展開を行った。たった1〜2分の1曲につき約2GBもの容量を誇る、7次Ambisonicsの作品。22曲入りのアルバム1つで、なんと30GBにも及ぶ。
「どうせやるなら、エポックメーキングなものを。」そう考えた江夏氏は、Synthax Japan 伊藤氏と共に試行錯誤を繰り返し、このアルバムの制作に取り掛かった。軽い気持ちで始めたものの、そこには様々な困難とチャレンジがあった。
 
そうしてやっとの思いで出来上がった作品が、本ワークショップの名古屋会場で初公開されたのだ。
 

イマーシブ・オーディオとは

音には次の種類がある。点音源の「モノラル」、2つのイメージを持つ「ステレオ」、二次元に広げた「サラウンド」。それに高さ(Hight)が加わったものが「イマーシブ・オーディオ」と総称されるようになった。実際は、DTS-X、Auro-3D、Dolby Atmosなど、様々なフォーマットが展開されている。
 
江夏氏は3年前にDolby Atmosの作品を手掛けるオファーを受けている。しかし、Dolby Atmosはフォーマットが決まっており、再生環境が整っている場所でないと作品を視聴することが叶わない。Dolby Atmosの再生システムは、一般家庭には少々高額で、手が届きにくいこともあり、多くの方に作品を楽しんでもらうことは現実的に難しい。当時は、まだイマーシブ作品への挑戦には、非常に高いハードルが存在していた。
もしかすると、Ambisonicsは、そのハードルをクリアーする要素の多いイマーシブフォーマットかもしれない、と考えた江夏氏。だが、64chに及ぶ7th order Ambisonics(7次 アンビソニックス )にどれだけ意味があるのかはまだわからない。しかしそれを提供することで、多くの人にイマーシブ・オーディオを楽しんでもらうチャンスが訪れるのではないかと考え、「やるなら最大限のクオリティで提供したい」ーーーそう考え、このプロジェクトはスタートした。
Ambisonicsの可能性は未知数な部分が多いが、現時点ではっきりしているAmbisonicsの利点は下記の通りだ。
 

Ambisonics の利点

Ambisonicsは「シーン・ベース」というフォーマットである。Ambisonicsで提供されるファイルは、どのような視聴環境(スピーカー・レイアウト)にも左右されず再生することが可能だ。極端に言うと、どれだけいびつなスピーカー・レイアウトでも構わない。デコーダーさえあれば、私たちは誰でもAmbisonicsを体験することができる。ホームオーディオ、カーオーディオ、シネマ、ライブなど、その利点を活かせる場所は無限だ。
マルチチャンネルのスピーカーを設置することが難しい家庭でも、シーリングライト一体型のスピーカーなどを活用し、簡単にAmbisonics環境を構築することが可能である。スピーカーの配置にも縛られる必要がないため、例えば、自動車内の音響として柔軟に利用することが可能だ。また、自動運転機能が実装された車内では、運転から解放された運転者は、移動次に様々なコンテンツを楽しむことができるようになる。その中でも最も期待されているのが、このイマーシブ・オーディオだ。またAmbisonisは、バイノーラル・デコードを行うことでヘッドフォンでも作品を楽しむことができるため、まさにスピーカーの配置に縛られない、とても柔軟で商業利用しやすいフォーマットと言えるだろう。
 

試聴

ここで某TV番組のテーマ曲で起用された、ピアノ・和太鼓・篠笛のアンサンブル音楽《Beauty of Japan》を試聴した。後ろから鳴る鈴、ピアノの響き、そして美しい音色の和楽器が紡ぐサウンド。広がりのある繊細で豊かな空間から、非常に幻想的なイメージが展開された。
チャンネルベースのイマーシブ再生とは趣の異なる不思議な没入感に、参加者から感嘆の声が起こった。
《Beauty of Japan》、最初は2chステレオで再生された。DAW上でのトラックの並べ方は、通常の2ch作品のそれと変わらない。しかしながら作品をイマーシブに展開した途端、今まで聞こえなかったサウンドが見えるようになったのだと、今回のAmbisonicsミックスをサポートした伊藤氏は語る。鈴の流れる音やピアノのペダルを踏む音など、他の高域の周波数にかき消されてしまっていたディティールが繊細に見えてくる。それらが良いリズムを作り出したり、音の粒子感を細かくしたり……といった効果を生むのである。
音圧を稼ぐ必要は全く無い。それよりも、ダイナミクス・レンジを楽しんでほしいのだと彼らは語った。
ハイレゾ Ambisonics 講演:Beauty of Japan
 


 

Ambisonics の次数について

1st order = 4ch、2nd = 9ch、3rd = 16ch……そして、7th = 64ch。この数字は何を表しているのか。
 
例えば「ステレオ」は、1つのファイルに L / R の2つのオーディオファイルを含んでいる。対して7th order Ambisonicsは、1ファイルに64chのオーディオファイル(インターリーブWAVファイル)が入っているのである。これはとても驚異的なことだ。
ファイル容量も大きく、それに見合う効果があるかも分からない。江夏氏も、最初は5th orderでも良いのではないかと思ったそうだ。しかしAmbisonicsは、7次で楽曲を作っておけば、5次でも3次でも1次でも、その時の再生環境に合わせて次数をダウングレードさせて再生することが可能。そのため、作品自体は高次の アンビソニックス で制作することになった。
 

H.O.A. (High Order Ambisonics) の利点

一般的には、1次Ambisonicsより高次のものを「ハイ・オーダー・アンビソニックス」と呼ぶ。音質が上がるのではなく、球面上のどこから音が出ているのか、という音の「定位」の解像度があがるため、次数が高まるほどよりリアルな音場の再現が可能になる。SDがHDに、HDが4Kになるように解像度が上がるため、より音像を的確に表現できるようになるのである。今回、最上位の7次Ambisonicsを採用することで、定位感、移動感、空間感……全てにおいて今までのサラウンドでは表現できなかった次元へと到達することができたと感じている。
 

音像の移動

ハイレゾ Ambisonics 講演:headtrackerここで、IEM Plug-in Suiteの開発者でもあるダニエル氏が開発したパンナー(ヘッドトラッカー)が登場。中に加速度センサーを始めとする各種センサーが入っており、こちらもソースコードが公開されている
USB接続のMIDIコントローラのため、江夏氏はこれをパンナーとして活用。手に持って踊るように音のパンニングを行った。
 
 
ここで、「ピアノソロの上をモジュラーシンセが走る」という、音像の移動感が特徴的な楽曲《Contradiction》を試聴。「音、飛んでました?」という江夏氏の問いかけに、多くの参加者が大きく頷いた。また、同じ曲をステレオとイマーシブで切り替えながらの比較試聴も行い、その広がりの違いも体感した。
Ambisonicsは、その他のサラウンドに比べて音像の動きがはっきりとスムーズであることもひとつの特徴。自分がパンナーを手にして動けば動くほど音が追従して来たそうだ。まさにAmbisonicsの可能性を感じた瞬間だったと語る。
ハイレゾ Ambisonics 講演:Contradiction
 
パンニングも大切だが、とにかく全てのサウンドが立体感を持って聴こえてくる。ヘッドホンや車でこれを体感できるのは、期待度が非常に高い。
 


 

実際の制作について

では、実際にAmbisonics作品を制作するのはどれだけの労力が必要か。
現在はまだ大変なことも多い。ただ将来的には、現在我々がDAWを活用するように簡単になるのではないかとも考えている。
その中でキーとなるのが、先ほども登場した「IEM Plug-in Suite」の活用だ。このVSTプラグインはオープンソースとして公開されているので、誰でもすぐにダウンロードして使用することができる。そして、現時点で7次Ambisonicsに対応するDAWは「REAPER」のみである。価格は6,000円ほどで提供されており、これは、インターネットで購入することができる。
すなわち、だれでも、今日からでもAmbisonicsを始めることができるのである。
 

ミックスについて

Ambisonicsのミックス作業は困難を極めた。DAWの限界への挑戦だった。物理パンナーが4軸で動くため、フリーズしたり意図しない動きが描画されたりと、オートメーションの記録に大変苦労したそうだ。ただ、これは技術的な問題のため将来的に解決されるのではないかと推測される。
今回江夏氏がこだわったポイントは、ハイレゾでり、7次という高次アンビソニックスだ。「聴こえてこなかった音が聴こえてくる」といった情報は、ハイレゾであればあるほど鮮明になる。人間の耳は20kHz以上聴こえないとされるため、96kHzや192kHzに果たして意味はあるのだろうかと問われることも多い。しかし再生環境を整えれば、どんな人でもサンプルレートの聴き分けは可能だ。江夏氏のスタジオで、それを聴き分けられなかった人は過去にいないという。
つまり、ハイレゾ+7次Ambisonicsにこだわることによって、より作品への没入感を高められるのではないかと考える。
 
ハイレゾ Ambisonics 講演:Surround Panner
Reaper画面下部に表示されたミキサーの緑色のバーは、64ch分のレベルメーターを示す。これらをミックス・マスタリングし、Ambisonics Busへ送る。そのレベルメーターの多さで、これが高次のAmbisonicsであることが伺い見れる。画面上部はオートメーション・トラック。4軸分、個別に記録されていることが分かるだろう。
制作は何もかもが初めての状態だったが、特に「ピーク管理」が大変だったそうだ。まず、どのチャンネルでクリッピングしているかを探し当てるのが一苦労。せっかく探し当てても、次の箇所のクリッピングは違うチャンネルだ。64個もの音があるため、原因特定が困難である。
江夏氏はこの作品において、とにかくダイナミクスレンジを大切にしている。無闇にレベルを下げたり上げたりといった処理は行わない。故にリミッターやマキシマイザーも使用しない。お互いのバランスを維持したまま、適切に聴こえるように音像を定位させる作業が必然となった。
 


 

試聴

そして他の作品の試聴を行った。
 
《Trilogy》《SAKURA》:2台ピアノ
作品がAmbisonicsのため、ピアノをどこにでも配置することができる。当初はプラグイン「Room Encoder」を使って「室内で綺麗に鳴っている」という状況を再現しようとしたが、あまり良い効果が得られなかった。
VR作品のように音像が移動するものでもない。あくまで音楽作品としての広がり、奥行きーーー音が醸し出すエンタテイメントを作るため、次の方法を採用した。
「Stereo Encoder」を使用し、ステレオファイルを左側 仰角35°/70°の場所に配置。2台目のピアノは、その反対(右)側に配置した。少し上の方向に、ステレオファイルを2個並べたような状態を作り出した。実際にはあり得ないシチュエーションだが、この方法を取ることで、球体の空間を美しく包み込むことに成功した。
ハイレゾ Ambisonics 講演:Trilogy SAKURA
作品にもよるが、例えば「ミュージシャンが室内で演奏しているシーンを再現したい」ということであれば、部屋の初期反射をエミュレートする「Room Encoder」を使用するのが適切だろう。しかし今回の2曲については、音の響きやディティールを重視する音楽を目指したため、上記のStereo Encoderを用いた方法がベストだったのではないかと語る。
 
《Lovestruck》:ピアノ+ストリングス
全体を包み込むストリングスとピアノのコントラストが、なんとも美しい楽曲だ。
 
《GENSO》:ピアノ+生バイオリン(アンサンブル)
バイオリンが右上から降ってくるような配置がなされている。「降ってきている感覚はわかりましたか?」という問いに、またも皆が頷いた。
これも、従来のイマーシブ・サラウンド作品では表現しきれなかった領域に達しているそうだ。シーン・ベースにて表現をした途端、突然降り注ぐ感覚が強調されたことに感動したのだという。
 
《L’eau et sol》:ピアノ+モジュラーシンセ+打ち込み
きらきらと澄み渡る、洗練されたサウンドの楽曲だ。
以下の写真、画面左上に表示した「Energy Visualizer」は、球体のどこに音が配置されているか(エネルギーが集まっているか)を視覚化できるプラグインである。ミックスダウンをする際、このプラグインを見ながら配置してゆく。従来には無い感覚だが、使い慣れてくると「移動中にEnergy Visualizerを見ながらヘッドホンでミックスする」といったことも出来るのだという。
ハイレゾ Ambisonics 講演:L'eau et sol
 


 

Ambisonics 作品の制作における問題点

制作の問題点は、現時点では多数ある。ひとつは、7次Ambisonicsの制作が行えるツールがほとんど存在していないこと。そして、その使い方もAmbisonics独特なものが多く、例えば「場所をコンプレッションをする」といった今までに無い新しい概念も加わってくる。つまり「何をどうしたいか」というオプションは、膨大な数が存在するのである。
 
今回の作品において最も苦労した点は、先述の通り「ピーク管理」である。今後、64ch分のAmbisonics Busに果たして思い通りリミッターが掛かってくれるのか。またパンナーについても、自分の意図した動きを記録してくれる製品が開発されるかどうか。リバーブも現状では「空間」の手法が主だが、どのようなリバーブの手法が生まれるのか。ステレオイメージをどうイマーシブに広げるかーーー
あくまで「シーン・ベース」であるため、アプローチはどのような方法でも構わない。ただ音楽作品においては、ディレイ、モジュレーション、そのほか様々なプラグインが必要不可欠だ。Ambisonicsはまだまだ発展途上の分野。IEM Plugin Suiteには、Ambisonicsでの制作に必要な基本プラグインが全て揃っているとはいえ、実際は、私がやりたいことを実現するツールが、まだ足りていないのが現実だ。ステレオ、サラウンドとは全く違った、新たな概念のプラグインの登場が期待される。
ハイレゾ Ambisonics 講演:アンビソニックスの問題点
 

今後の Ambisonics

江夏氏が制作時に語った印象的な言葉がある、と伊藤氏は発した。
「Pro Toolsを初めて使った時、僕は今と同じ気持ちを味わった。新しいフォーマットが生まれ、制作論がまだ何も無い時代。これからまた、始まりだ。」
 
テクノロジーの進化と共に、音楽の視聴環境は変化するだろう。今求められているのは、制作および視聴環境の整備である。
制作においては、対応のDAWとプラグインは多くないのが現状だ。まだまだ入り口は狭い。同様に、高次Ambisonics作品を聴くためのプレイヤーも現時点では世に存在していないが、近い将来、その問題も解決され、様々なプラットフォームで再生することができるようになるだろう。そして、Ambisonics対応のアンプが登場することにより、さらに視聴の機会は増えるのではないかと考える。
 
Ambisonicsの利点は、視聴環境を問わないこと。イヤホンでも、5.1chでも、車内でも、レイアウトさえ正しくデコードすれば、極めて高品位な再生を行うことが可能である。この点にておいて他の立体音響に比べ、整備しやすい環境にあることは現実だ。
1970年代には既に理論が確立されていたAmbisonics。当時普及しなかった理由は、CPUパワー不足などハードウェアの部分が原因だろうと推測される。しかし、あれから40-50年の時を経て、今日ようやく当時確立された理論が実現できるようになったのである。
VRなどの様々な音楽コンテンツが発生する中で、従来のステレオというフォーマットは、いかにして作品をユーザーに届ければ良いかという葛藤と議論が繰り広げられている。音圧戦争にも限界が訪れつつあるのが現状だ。
江夏氏は、そのためには出来るだけ多出力のマルチチャンネル・スピーカーが必要になるだろうと考え、イマーシブ・オーディオに興味を持つようになっていた。そんな時、ついに7次Ambisonicsという緻密なシーン・ベースの音楽が提供できる時代が到来した。いよいよ新しい立体音響の幕開けがこのAmbisonicsからスタートするのではないか。そんな希望すら感じたのだという。
 
まだまだ問題点も多く、再生環境も整っていない。数年後「今の話は全て嘘だった」となる可能性もゼロではない。しかし、Ambisonicsが世の中を席巻している未来もまた、可能性はゼロではないだろう。
 

まとめ

既にYouTubeやFacebookなどの360°コンテンツでは、1次のAmbisonicsファイルをインポートできるようになっている。フォーマットとして最も柔軟性を持つYouTubeがいち早く4Kに対応し、8Kに対応し、そしてAmbisonicsにも対応した。動きはもう、ここまで来ているのだ。
「本講演で、少しでもAmbisonicsの可能性を感じ、体験し、そして制作をするようなベクトルに向いてほしい」という言葉で、江夏氏のセッションは終了した。
ハイレゾ Ambisonics 講演:MIW2 - 江夏氏
 


使用機材

Fireface UFX+

RME Fireface UFX+

94イン/94アウト 24bit/192kHz対応 ハイエンド USB & Thunderbolt オーディオ・インターフェイス&レコーダー

M-32 DA

RME M-32 DA

32ch ハイエンド MADI / ADAT > アナログコンバーター

Gelelec S360

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イマーシブ・オーディオ の基礎知識と3D録音の実践:Florian Camerer氏

MIW2:イマーシブ・オーディオ概要 +フィールドレコーディング実践論

フローリアン・カメラー氏による講演。イマーシブ・システムの背景にある概念と理論について、またカメラー氏の使用する独自のマイクシステムについて詳細が紹介された。

「なぜイマーシブ・オーディオに取り組むべきなのか?」

2Dから3Dへの発展で、よりエンタテイメント性が高まる。私たちは常に360°の聴覚を持っているため、それを表現するのは至極自然な流れである。例えば、近い将来、電気自動車の普及による静音化、そして、自動運転が搭載された車内では、イマーシブ・コンテンツを日常的に楽しむ世界がくるだろう。

車内


MI7グループ主催のセミナーイベント「Media Innovation Workshop vol.2」

「最先端の音響で、全てのビジネスを一歩先へ。」

第2回目となる2019年5月、イマーシブ・オーディオ(立体音響・没入型サラウンド)に関するワークショップが国内3箇所で開催された。

現在、音楽だけなく様々な業界でニーズが高まっている「イマーシブ・オーディオ」。今回は、イマーシブの現場の最前線で世界的に活躍される3名が登壇された。
ORFオーストリア放送協会のフローリアン・カメラー氏、”サラウンド将軍” Mick沢口氏、そして、日本初のAmbisonicsアルバム制作者 江夏正晃氏。各講師より、イマーシブに関連する基礎知識や録音/再生技術、また制作した作品の紹介や、より実践的なノウハウについてお話し頂いた。

ワークショップ詳細

 


講師

Florian Camerer
フローリアン・カメラー
ORFオーストリア放送協会 サウンド・エンジニア
EBU PLOUDグループ 代表
AES(Audio Engineering Society) メンバー

ウィーン・ニューイヤーコンサートの録音エンジニアとしても活躍。1990年にオーストリア放送協会(ORF)に入社。1995年、プロダクションサウンドとポストプロダクションの分野でスタッフサウンドエンジニア(トーンマイスター)として就任。彼はDolby Surroundにおける初のORFプログラム “Arctic Northeast”をミックスし、以降ORFでのマルチチャンネルオーディオの各方面に携わる。 2008年秋、EBUグループPLOUDの議長に着任。ヨーロッパで、ピークレベリングの代わりとなるラウドネス正規化の導入に成功する。現在、特にイマーシブ・オーディオ(3Dオーディオ)を含むラウドネスとサラウンド音響に関するプレゼンと講演を、国際的に行っている。

 


 

目次

目次

セッションの始めに、さっそく楽曲を視聴。カメラー氏が4-5年プロデュースしている「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート」の3D録音が、映像付きの9.0chで再生され、まるで自分がニューイヤーコンサートの会場にいるかのような、包み込むような臨場感。その圧倒的な没入感から、ワークショップはスタートした。

曲目:ラデツキー行進曲(ヨハン・シュトラウス1世 作曲)
収録場所:ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート(ウィーン楽友協会 大ホール)
フォーマット:Auro 3D(9.0ch / Blu-ray Disc)
Blu-ray詳細
https://www.sonymusic.co.jp/PR/new-years-concert/discography/SIXC-20


 

イマーシブ・オーディオのアプローチとフォーマット

イマーシブ・オーディオの方法論は、大きく分けて2種類あり、それぞれの方法論において様々なカテゴリーによるアプローチが可能となる。

1.音響心理学に基づいたアプローチ

  • チャンネル・ベース
  • オブジェクト・ベース

2.物理的な音場再構築に基づいたアプローチ

  • シーン・ベース
  • 波面合成
  • バイノーラル

その中でも一般的なものは「チャンネル・ベース」「オブジェクト・ベース」「シーン・ベース」の3種類。
それぞれ異なる手法について、「制作(Production)→配信(Distribution)→再生(Playback)」それぞれの段階における違いを解説する。
方法論

【A】チャンネル・ベース

オーディオ・ファイルがそれぞれの再生チャンネルに紐づいた形式。長年の歴史を持つフォーマットであり、近年まで盛んに行われてきた2ch形式の録音・ミックスや、5.1や7.1サラウンドのミックスは、すべてこのチャンネル・ベースである。制作(Production)の段階で、再生時(Playback)の形式、つまり「スピーカーの本数や配置」を決める必要があるということが最大の特徴となり、再生時のスピーカー配置に添うように、必要に応じて、ステレオミックス、サラウンドミックス、イマーシブミックスと、異なるミックスを複数制作しなくてはならない。
チャンネル・ベース

【B】オブジェクト・ベース

チャンネル・ベースとは異なり、オブジェクト・ベースでは、オーディオ・データとメタ・データが制作(Production)ステージでレンダリングされないのが特徴である。収録したオーディオ・データは、ミックスの段階にて発生するパンニングやレベルなど様々なメタ・データとは異なるデータとして個別に保存される。つまり、制作(Production)の段階で再生(Playback)時のスピーカーの本数や配置を決定しておく必要が無い。これがチャンネル・ベースとの最大の違いと言える。
そしてデータは、そのままオーディオ・ファイル/メタ・データと別れた状態で配信(Distribution)される。そして、再生ステージにデータが届くと、ここで初めてレンダリングが行われ、再生時の環境(スピーカー配置など)に合わせて適切な処理(レンダリング)が施され、各スピーカーに音声が送られるという流れだ。
再生時に初めてレンダリングされることにより生まれる「User Control」が、オブジェクト・ベース最大の利点といえる。
Object Base
従って、オブジェクト・ベースでの制作はでは、ひとつの演目(録音)に対して、2ch/5.1ch/9.1chミックスと、再生時のユーザー環境に添うように異なるミックスを複数制作する必要がない。チャンネル・ベースとは異なり、Productionステージで制作するのは一種類のミックスのみである。ただし、その代わりに再生時にはオーディオ・データとメタ・データをレンダリングする「レンダラー」が必要となり、ユーザーは、それに対応したAVアンプなどを用意しないと再生をすることができない。

【A+B】ハイブリッド

【A】チャンネル・ベースと【B】オブジェクト・ベースを合体させたハイブリッド・タイプ。多くの商用フォーマットはこのハイブリッド形式を採用している。
まず、作品の中で静的な音(BGMや環境音など)は、チャンネル・ベースとして事前に決めたスピーカー配置に基づいてデータを作成。そして動的な音(ヘリコプターや車、効果音など)は、オブジェクト・ベースとして、オーディオ・ファイルとメタ・データを別で保存する。
配信の段階では、【A.ステムにまとめられたオーディオ・データ(Bedsと呼ぶ場合もある)】+【B. オーディオ・ファイル+メタ・データ】という形でデータが配信される。再生段階でユーザーが視聴環境(スピーカーレイアウトなど)を選択し、オブジェクト・ベースの部分がこの段階でレンダリングされた後、チャンネル・ベースの音声とサミングされ、各スピーカーへと送られる。
このチャンネル・ベースとオブジェクト・ベースのそれぞれ良い部分をハイブリッドして使用するこの形式は、Dolby AtmosやAuro-3D(Auro-Max)、DTS:Xなど多くの商用フォーマットで採用されている。
Hybrid

オブジェクト・ベースの利点

「オブジェクト・ベースの利点は、一言で言うと、その柔軟な『適応性』にある」とフローリアン氏は語る。
例えば、mp3で有名なドイツのフラウンホーファー研究機構が開発する「MPEG-H Audio」は、「ユーザーの好みに合わせて自在にミックスを変更できる」というオブジェクト・ベースの利点を生かした規格である。コンテンツのダイアログやオーディエンスのボリュームなどをユーザー自身が好みに合わせてコントロールしたり、言語を複数の言語に自在に切り替えることが可能で、音の取捨選択をユーザー自身が決めることができ、実際に様々な国で標準規格として採用されている。
また、再生環境(リスナーのスピーカー配置)に対して、2ch用/9ch用など複数のミックスを制作する必要がない。一種類のミックスで全ての多くの視聴環境に対応できることも、この「柔軟性」にあたる。

プログラムの変更も可能
オブジェクト・ベースの機能的特徴は、実は、オーディオ以外の部分でも様々な活用が可能だ。
オブジェクト・ベースを利用すれば、ユーザーの状況に合わせて自在にコンテンツのプログラムも変更することができる。例えば45分尺の作品をそのまま視聴するのではなく、追加ストーリーも含む60分尺で鑑賞をしたり、時間の無い時には、ストーリーをかいつまんで15分尺で作品を鑑賞することができる。その時々の視聴環境に合わせて、プログラム自体を調整することもユーザー側で可能となる。イギリスの国営放送BBCでは、この機能を利用したプログラムがすでに採用されている。
つまり、オブジェクト・ベースの仕組みを利用すれば、「オーディオ」だけにとどまらず、様々な「柔軟性」をユーザーに「選択肢・サービス」として提供できるようになる。また、オブジェクト・ベースの機能を全てオーディオに割り当てることにより、よりImmersive(没入感の高い)コンテンツを作ることももちろん可能だ。


 

基本理論

ステレオフォニー

本セミナーは3Dオーディオ(イマーシブ・オーディオ)がテーマだが、3Dオーディオでの収録を行うにあたって重要な考え方をお伝えするために、まずはステレオ録音の理論からお話ししたい。
定位を特定するパラメータは、「距離」「角度」「指向性」の3種類。ステレオ録音に際して、結果としてどういった形の録音ができるのかが、この3つのパラメータで決定される。
ステレオフォニー
2本のマイクを使用して録音を行うと、目には見えないが、Recordingアングル(録音アングル)というものが発生する。
ステレオ・レコーディング・アングル
例えば、75°に配置されたオーケストラの演奏を、75°の録音アングルに綺麗に収めるように録音する。するとリスナーは、そのオーケストラの音を正しく2本のスピーカーの間に聴くことが可能となる。
ステレオ・レコーディング・アングル
しかし、この「アングル」ができるのは録音時だけではない。再生時には、2本のスピーカーの間にReproductionアングル(再生アングル)が発生するのである。
ステレオ・レコーディング・アングルもちろん、再生アングルはスピーカーの配置角度に従って変化する。例えば、一般的な制作環境でよく採用されているLチャンネル30°+Rチャンネル 30°=60°のスピーカー配置を例にして、先ほどの75°の録音アングルで収録された音源を再生すると一体どのように聞こえるか考えてみよう。
上の図のように、音像は、左右からぎゅっと圧縮され再生される。
もちろん各楽器の配置などは相対的にキープされたまま、音像だけが少し圧縮され2本のスピーカー間に収まる形になる。これが例えば180°の録音アングルで録音された音源の場合は、音像は随分と圧縮されて再生されてしまうことになる。

では、どうすればこの問題を解決できるのか。
答えはシンプル。録音アングルを再生アングルに合わせて調整すれば良いのである。

そこで登場するのが、この「ウィリアム曲線」だ。
ウィリアム曲線
「スイートスポットの王様」と呼ばれるウィリアム氏(スコットランド)が考案したグラフ。上の図は2本のカーディオイド・マイクを用いたステレオ録音の曲線だ。横軸は「マイク間の距離」、縦軸は「マイクの角度」を示している。
例えば有名なORTFのマイキングシステムは「距離17cm/角度110°」。これで、100°に近い録音アングルが生まれるのである。同じように、XY方式は「0 cm/90°=録音角180°」。対してAB方式は「約45 cm/0°(平行)=録音角120°」。距離が狭いほど録音アングルは広くなる。
上記を踏まえ、マイク間の距離と録音角を調整すると、録音時/再生時の角度が一致するのである。

サラウンド

この録音アングルと再生アングルの角度を一致させるという概念は、音楽の録音においてはあまり重要視されないことが多いが、サラウンドのフィールド・レコーディングの場合、非常に重要なファクターとなる。録音アングルと再生アングルの角度を一致させないと、鳥や車、風など動く音像を捉える場合、スピーカー間を動く音像のスピードが変わってしまうのだ。

まず、録音アングルと再生アングルの角度を一致させた場合、実際の音とスピーカーから再生された音像のスピードがどのように変わってくるのかを、次のアニメーションで見ていただきたい。
マイクロフォンが、再生時のアングルに完全に合致するように真ん中に配置されており、その周りをハチが一定のスピードで正確にマイクの周りを一周したとする。内側の紫色のボールはこのハチの動きを表しており、外側の黄色のボールは、再生時にスピーカーから聞こえてくるハチの音像である。
アニメーションがスタートすると、黄色のボールと紫のボールが一緒のスピードで移動することがわかるだろう。つまり、ハチの飛行スピードが、再生時に正確に再現されたことになるのである。
録音アングルと再生アングル

対して、録音アングルと再生アングルの角度が一致しない場合は、どうなるのか。これもアニメーションで見てみよう。
録音アングルと再生アングル

スピーカーで再生した時、ハチの飛んでいるスピードが、実際のスピードに対して極端にスローになったり、逆にすごく速くなったりするのが見て取れると思う。これではリアルな録音にはなり得ない。特にフィールド・レコーディングにおいて録音アングルと再生アングルの角度を合わせることが重要なのは、こういった理由によるものなのである。
そこで、カメラー氏は一体どのように工夫を重ねてきたのか。
ここから、カメラー氏が歴代使用してきたマイク・アレイの紹介となる。


 

2D Arrays – 5.0chマイク・セットアップ

2Dマイクアレイ

目標

2Dのマイキングを紹介するために、サラウンド・レコーディングの目指すゴールについてお話ししたい。主に以下のような項目だ。
2Dマイクアレイのゴール

上記の項目が大方得られている録音ができれば、その録音は良い録音になっていると言えるだろう。
「包まれ感」や「音質」は当然重要な項目であるが、「低音感(良い低音)」も非常に重要だ。特にDiffuse Field(拡散音場)においては、無相関で録音できているとさらに良い。
より良い低音を得るには、無指向性マイクが必要となる。ただし無指向性マイクの場合は、欲しくない音を拾ってしまうこともある。そのためカメラー氏は、無指向性ではなくワイド・カーディオイドのマイクを現場で使用している。

ワイド・カーディオイド

なお、「定位感」と「広いスイートスポット」は相反する項目となるため、録音の目的によってバランスが必要だ。つまり、定位感を強くすればスイートスポットは狭くなるし、スイートスポットを広くしようとすると定位感は薄れる……という具合だ。
ということで、上記を満たすマイク配置として、カメラー氏は「ワイド・カーディオイド・マイクを使い、マイク間の距離は広め」がベストだと考えている。
それを踏まえ、彼が挑戦してきた歴代のマイク・アレイが3種類紹介された。

【1】ポリヒムニア(Polyhymnia)

フィールド・レコーデングを始めた頃(25年ほど前)、最初に挑戦したマイク・アレイがこの「ポリヒムニア」である。無指向性のマイク5本からなるセッティングだ。
このマイク・アレイは、後ろのサラウンド用のマイク間の距離が広すぎた。フィールド・レコーディングを行ったところ、包まれ感は良かったが、後ろ側の2つのマイクの距離が広すぎるため「ダブル・モノ」状態になり、スピーカーで再生した際に、後ろの2本のサラウンドスピーカーの間で「中抜け」現象が発生してしまった。
なお、ウィリアム曲線をまだ知らなかった初期の頃の配置である。
ポリヒムニア

【2】Corey-Martin Tree(コーリー・マーティン・ツリー)

ポリヒムニアの短所を改善すべく次に挑戦したのが、「コーリー・マーティン・ツリー」である。コンサートホール用での収録用として考案されたこのマイク配置。フロント3本はワイド・カーディオイド。リア2本はカーディオイドで、天井を狙って上向きに配置している。
コーリー・マーティン・ツリー
リアの2本の上向きのマイクで天井からの響きを収録するようにデザインされているのだが、フィールド・レコーディングでは「天井」がないため、カメラー氏はリアもワイド・カーディオイドに変更。上向きではなく、フロント同様に外向きの配置にした。
コーリー・マーティン・ツリー
このマイク・アレイは、録音アングルと再生アングルが一致していることが特徴で、前回の距離の問題は解決した。しかし、マイクを1つ1つウィンド・ジャマー(風防)で覆っていることで、一方向からの突風の吹かれが 「見え」やすくなるという問題が新たに発生した。つまり、特定のスピーカーだけが大きな吹かれ音を出すことにより、スピーカーがリスナーに「見え」てしまうようになり、そして、そのことにより最も大切な没入感が薄れてしまうという問題だ。
コーリー・マーティン・ツリー

 

【3】UFIX(ユーフィックス)

UFIX
そして生まれた第3のセッティングが「UFIX」だ。「1つの大きな風防にマイク全体を納めてしまえば解決するのでは」という発想から生まれたマイク・アレイである。
大きな風防の製作は、フランスのフィリップ氏に依頼した。
UFIXは、一つの大きな風防の中に、「コーリー・マーティン・ツリー」を改良した、5本のワイド・カーディオイドのマイクとコネクタが入っているセッティングとなっている。
UFIX

2Dサラウンドでのマイク・アレイのご紹介はここまで。さて、いよいよ今回のセミナーの主題である「3Dサラウンド」、つまりイマーシブ・オーディオでのマイク・アレイを紹介する。


 

3D Arrays – 9.0chマイク・セットアップ

Double UFIX
3Dサラウンドの録音にあたっては、先程の「UFIX」を2つ重ねた、9.0chのマイク・アレイ「ダブルUFIX」を採用した。ボトムに5つ、トップに4つのワイド・カーディオイド・マイクが、それぞれ録音アングルと再生アングルを合わせて配置されている。
Double UFIX

Double UFIX

もちろん、縦方向においても、録音アングルと再生アングルを一致させる必要があり、トップとボトムそれぞれのマイクの角度を正確に合致させることで、音像に正確な立体感が生まれることになる。風防を除いた骨組みは下記の通りだ。
Double UFIX

本セミナーの会場では、カメラー氏が、歴代どのように考えマイク・アレイを進化させてきたかの説明に伴い、それぞれのマイク・アレイで実際に収録した録音が再生された。特にDouble UFIXでの録音については、「まるでスピーカーの向こう側に世界が広がっているかのようでしょう」というカメラー氏の言葉通り、素晴らしい没入感だった。
Double UFIX


 

シーン・ベース(Ambisonics)

さて、目次の最後の項目「シーン・ベース」について紹介する。
シーン・ベースは一般的に「Ambisonics(アンビソニックス)」と呼ばれており、1970年にはすでに確立されていた理論である。シーン全体を球面で捉える方式で、ここ数年のVRブームで急速にメジャーになった。
録音の対象物であるサウンドを収録してミックスする際、チャンネル・ベースやオブジェクト・ベースとは異なり、Ambisonicsでは「エンコード」が必要となる。そして、エンコード処理に「球面調和関数」が使われるのも特徴だ。球面調和関数は、数学や物理の世界ではよく使われるため、耳馴染みがある用語だと感じる方もいるだろう。
Ambisonics

球面調和関数でエンコード処理を行った音源は、360°全天球の音場にプロットされるのだが、この際、全天球の音場を「シーン」として捉えるため「シーン・ベース」というワードで表現されるというわけだ。
ちなみに、Ambisonicsは、First Order(一次)から、Second Order(二次)、Third Order(三次)と、次数をどんどん高めてゆくことが可能である。これら高次のAmbisonicsは、HOA -High Order Ambisonics-(高次アンビソニックス)と呼ばれており、理論的には次数はいくらでも上げることができる。球面調和関数と高次アンビソニックスについては、少し詳しい説明を後ほど行うが、ここではまず、Productionステージにおいて球面調和関数を使ったエンコード処理が必要であるということをご理解頂きたい。
Ambisonicsフォーマットにエンコードされたファイルは、通常のインターリーブのWAVファイル形式である。そのためDistoributionステージでは、このオーディオ・ファイルをリスナーの待つPlaybackステージへと様々な方法で伝送することが可能だ。
そして、リスナーの手元に届いたAmbisonicsファイルは、Playbackステージにおいてデコードされることになる。
Ambisonics

デコードの段階で、どのようなスピーカー・レイアウトにも対応させられること、これがAmbisonicsのもう一つの大きな特徴である。先述のオブジェクト・ベースもどのようなスピーカー・レイアウトにも対応できると説明したが、実際にはDolby Atmosなどもチャンネル・ベースとのハイブリッドの規格のため、5.1.4/7.1.4といった、ある程度事前に決められたスピーカー・レイアウトが存在する。その反面、Ambisonicsは、一切スピーカー・レイアウトに依存しない。文字通り「どのようなレイアウトでもOK」なフォーマットなのである。
したがって、既存のDolby Atmos(5.1.4/7.1.4他)/Auro3D(13.1他)/NHK(22.2ch)などはもちろん、アトラクションやインスタレーションなど変わった配置が求められる場所にも、柔軟かつ簡単に対応することができる。これはつまり、再生段階でどのようなスピーカー・レイアウトが待っていても、制作段階で作るミックスはたった1種類で良いということだ。Dolby Atomos用ミックス、Auro3D用ミックス、22.2用ミックス、ヘッドフォン用ミックス……と異なる数種類のミックスを作る必要がないため、制作のコストを大幅に抑えることができる。これが、おそらくAmbisonicsの最大の特徴(長所)になるだろう。
もちろん、バイノーラル・エンコーディングを行えばヘッドホンでの視聴も可能だ。

そして最後に、ヘッドフォンでの再生に関するAmbisonicsの特徴をもう1つ紹介したい。Ambisonicsは、その全球体の球体面にエンコードさせた音の動き……動かない音も動く音もすべて、球体ごと自由に回転させることが簡単にできる。これが、ずばり冒頭で紹介した、VRブームでAmbisonicsが急速に脚光を浴びることになった理由である。
球面体を自由に動かせることにより、VRのゴーグルを装着し、完全没入型のコンテンツを体験している時に、右や左を見た際に音だけが本来コンテンツ内にて発音されている位置から動かずにいられる……つまり裏を返して言えば、音像は、ゴーグルの動きとは逆方向に自動的にパンニングされているということになる。Ambisonicsを使えば、全ての音の相関関係を保ったまま、その球体面全体を簡単に素早く回転させることができるため、VRの音声には最適なフォーマットなのである。

球面調和関数

Ambisonicsのエンコードに関わる球面調和関数は、音の倍音と非常によく似た性質だ。倍音(周波数ベースのハーモニクス)は、基音+2次、3次……と足されるにつれて、音色のキャラクタがよりはっきりとする。
倍音
Ambisonicsは、A-formatからB-formatにエンコードする際に次数を選択することができ、次数が大きくなればなるほど解像度が上がる仕組みだ。0次を無指向の1chとし、1次=4ch、2次=9ch……と増え、理論的には無限大まで増やすことが可能。計算上などの制約から、2019年現在では7次Ambisonicsが実用上の最大値とされている。
H.O.A.

Ambisonics専用マイク

昨今、複数のメーカーから様々なA-format アンビソニックス・マイクがリリースされいている。
アンビソニックス・マイク
カメラー氏は「Ambisonics専用マイクは、とても便利だけど必ずしも必要なわけではない。『なんでも』アンビソニックス化することが可能なんだ」と強調。モノマイクから大型のアレイまで、モノラルでも、ステレオでもマルチチャンネルでも、オーディオファイルであれば、次のプラグインで全てアンビソニックス化できると語った。

IEM Plug-in Suite

オーストリア・グラーツ大学のダニエル・ルードリッヒ率いるチームが開発したプラグイン・バンドルセット。
IEM Plug-in Suite
複数のエンコーダーやシェイパー、デコーダーなど様々なプラグインが含まれ、なんとオープンソース。コードも公開されており利用も無料のため、誰でも今日から使うことが可能である。

以上でカメラー氏のワークショップが終了。「Hurra!(ばんざい!)」と書かれたスライドで、セッションが締めくくられた。
Hurra!


使用機材

Fireface UFX+

RME Fireface UFX+

94イン/94アウト 24bit/192kHz対応 ハイエンド USB & Thunderbolt オーディオ・インターフェイス&レコーダー

M-32 DA

RME M-32 DA

32ch ハイエンド MADI / ADAT > アナログコンバーター

Gelelec S360

Genelec S360

SAM™ マスター・スタジオ・モニター

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4スピーカー/3ウェイ・ポイントソース・デザインSAM™スタジオ・モニター

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ハイヘッドルームの4スピーカー/3ウェイ・ポイントソースSAM™スタジオ・モニター

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Media Innovation Workshop Vol.2 イマーシブ / 立体音響 セミナー

 

最先端の 立体音響 で、全てのビジネスを一歩先へ。

MI7グループ主催のセミナーイベント「Media Innovation Workshop」、第2回目は、イマーシブ・オーディオ = 立体音響 に関するワークショップが行われました。

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